立ち直りには時間がかかります(※イメージ)
立ち直りには時間がかかります(※イメージ)

 一人暮らしのシニアが増えている。近頃は死に別れのおひとりさまを「ボツイチ」と呼ぶことも。大切な人を失えば、喪失感に襲われる。立ち直るきっかけは何か。料理をしたり、旅をしたり、恋をしたり……。自分なりのサバイバル術で前向きに強く生きる人たちを紹介する。

 立ち直りに時間がかかりながらも、夫との「思い出の地」を巡り、心を整理したのは、愛知県在住の荒木和子さん(78)。夫は6年前の正月の朝、食事中に目の前で倒れ帰らぬ人となった。さよならも言えなかった。

「そのときは次男が同居していたので、世話をすることで悲しみはまぎれましたが、3年間は死を受け入れられませんでした」

 亡くなって4年目の暮れ、夫が残した多くの書籍のリストを作ることを思い立った。会社を定年後に明治維新やシーボルト、地方史の研究などに取り組んでいた。故郷群馬の文書館に書籍リストを送り、利用できる書籍を17冊選んでもらった。

「去年その本を車に積んで、主人が通った文書館に一人で行きました。主人とよく泊まった浅間温泉にも、今年は3度出かけました」

 思い出の場所に一人きりで出かけ、楽しめることが、大きな変化だった。

「今私が元気でいるのも、夫と過ごした年月のおかげだなと気づきました。6年過ぎてやっとたどり着けた境地です。40代で独身だった次男も昨年所帯を持ち、ホッとしました。体の動く限りどこでも行きたいですね」

 荒木さんは、おひとりさまの境地を深めたようだ。

 違う異性に恋をして、「どきどき」を生きがいにした例もある。

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