本誌でおなじみの帯津良一医師(79)は、まさにその達人。今年1月、愛妻(享年69)の七回忌を迎えた。だがその別れは衝撃的なものだった。

「6年前、妻と娘で浦和のホテルに泊まりに行っていたんですが、娘から朝電話があって、『大変だーお母ちゃんが死んでる!』と。持病もなかったので、まさかという思いです」

 警察がホテルに入った。鑑識の見立ては心筋梗塞。

「私は患者さんが亡くなっても泣かないので、身内が死んで泣いたら恥ずかしいと思った。でも何より驚きすぎて、涙が出なかった」

 今は一人で埼玉のアパートに暮らす。

「娘や息子と暮らせば?という声もあるんですが、老後の世話のために家族を呼ぶのはどうかと思うし、一人も慣れれば楽。貝原益軒を師と仰いだ神沢杜口も44歳で妻を亡くした後、娘と住んだらと親戚に言われたが一人暮らしをした。共感します」

 帯津医師の場合は講演や執筆のためにホテルに泊まることも多い。その時間が気分転換にもなるという。

「とくに書くことは、新たな世界を得た感じでいい。締め切りに追われることすらどきどき」

 もう一つの楽しみが、大好きなお酒と、恋だ。

「町の蕎麦屋や居酒屋に行くのが楽しくて。しかもそこに意中の人がいれば最高」

 数年前に、東京・神田のウナギ屋の60代の女将に「好きだ」と告白したという。

「旦那さんもいる人だが、粋でね(笑)。最近は私の友人が紹介しろと言って、ウナギ屋についてくる。好きな人は3人くらい作るといいですよ、片思いでもね」

 恋は医師にとっても薬以上の効き目があるようだ。

 ◇立ち直るためのアドバイス
・泣きたいときは思い切り泣く
・引きこもらない、酒におぼれない
・自分や伴侶のことを知らない人と会ったり、まったく新しいことに挑戦する
・自立心を持つ(家族と住んでいるときから家事をする)
・伴侶以外に腹を割って話せる友人を持つ
・元伴侶に遠慮せずにどんどん恋を(再婚も)
・あまりに立ち直れなかったら専門医を訪ねる
(帯津医師、精神科医の和田秀樹医師への取材から)

週刊朝日 2015年12月25日号より抜粋