西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、野球の国際大会「プレミア12」の韓国戦逆転負けを検証した。

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 国際大会「プレミア12」で、日本代表は3位に終わった。3―0でリードしながら最終回に逆転されて敗れた準決勝・韓国戦をめぐっては、いろいろな意見が出された。私の考えを述べたい。

 まず、先発の大谷(日本ハム)は素晴らしかった。11月8日の開幕戦でも6回無失点だったが、このときは本来の出来ではなかったと思われる。力んで左肩が開き、顔と右腕で引っ張り込むような投げ方だった。準決勝では力みが消え、体の中心線に近い位置で腕を振れていた。7回で85球。開幕戦では91球を投じたが、疲労度は準決勝のほうがずっと少なかったろう。理想的なバランスで投げていたので、球速160キロを連投していたとしても、スタミナは切れていなかったと推察できる。

 勝負を分けた九回の継投についてはどうか。

 八回から登板した則本(楽天)が続投した。首脳陣は、則本をこの大会での救援陣の柱に据えたのだから、続投について外部がとやかく言うべきではない。

 問題は、このとき次の投手を準備させていたかどうかだ。韓国打線はこの回、先頭から代打が連続して安打を放ち、一、二塁とした。だが、ベンチは間を置くこともなかった。

 ここで1番打者に左翼線二塁打を打たれ、2点差とされ、無死二、三塁となる。ここで、私は松井裕を投入すべきだったと思う。四球の不安を抱える松井裕は「腕を振れる」状況で出すべきなのだ。「一塁は空いている。思い切って勝負してくれ」という余裕を与えないと。満塁になってからの投入では、四球を恐れて腕を振れない。

 
 九回に入る時点で、鹿取投手コーチと小久保監督はどんな継投の可能性を想定していたのだろう。走者が1人出たら、あるいは2人出たら……といったリスクマネジメントだ。

 小久保監督は野手出身で、球団での監督経験もなく、継投の重大な判断を求められたのは初めてだったはずだ。勝負のカードを早めに切るには、鹿取投手コーチが全面的に判断する必要がある。「準備できています」ではなく、「代えましょう」といった踏み込んだ提示だ。ベンチにいた者にしかわからないが、監督の背中を押すようなやりとりがあったかどうか。このあたりを首脳陣で反省・検証してほしい。

 もちろん、大谷を続投させる選択肢もあった。

 大谷について、日本ハムが小久保監督にどの程度、球数への配慮をお願いしていたかはわからないが、あの力みのないフォームなら、100球超えたって疲れは少ない。小久保監督が大谷本人に聞き、「まだ行けます」と言うなら続投させる。それぐらいの弾力性がないと、想定外の事態には対処できない。

 代表チームは12球団から選手を借りている。各球団への配慮は最低限必要だが、球団側も代表に選手を預けた以上、ある程度の起用の融通性を小久保監督に与えないといけない。

 WBCでは、日本の統一球とは違う大リーグ公式球が使われ、戸惑う投手もいる。私が投手総合コーチを務めたWBC2013では、田中(現ヤンキース)が苦しんだ。中心選手が不調だと、想定していたローテーションはすべて変わる。今の先発投手は登板の4、5日前に準備に入るが、私は2日前に先発を伝えたこともあった。それが代表の戦い方だ。選手も変化に対応する強さを身につけてほしい。

週刊朝日  2015年12月11日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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