「住民の個人情報を厳格に管理している自治体も多いと受け取られるかもしれませんが、実態はむしろ逆です。地本が名簿の提供や住基台帳閲覧の必要性がないほど、自治体が熱心に募集業務に取り組んでいるケースがほとんどです。積極的に自衛隊募集の説明会をしたり、広報誌に募集案内を掲載したりしています」

 個人情報の提供に応じていないのは、沖縄県の6町村だけだという。名簿の提供要請を拒否した北谷(ちゃたん)町の野国昌春町長はこう証言する。

「北谷町としては自衛官の募集業務そのものに応えていない状況です。特に戦争体験した町民の感情を考慮すれば、国からの要請であっても協力できません」

 ところが、今年になって沖縄地本の依頼に応じて沖縄市と宜野湾市が約2万4千人分の名簿を提供していたことが発覚した。10月25日付の「琉球新報」が報じている。論説副委員長の普久原均氏は「背景には、島嶼(とうしょ)防衛を理由にした与那国島や宮古島での自衛隊配備があるはずです」と分析する。

 県選出の照屋寛徳衆議院議員もこう怒る。

「事前に本人の承諾も得ずに名簿を提供したことは、個人情報保護条例の精神を逸脱しています」

 地本は全国で、住基台帳の閲覧しか許可しない自治体に対して名簿の提供を強く求める傾向にある。

 例えば、高知市は従来、住基台帳を閲覧させる方法で対応してきた。これまで自衛官2人が市庁舎に出向いて毎日6時間、5日間かけて住基台帳から約3千人の適齢者を書き移していた。ところが昨年12月、高知地本は市に対して名簿の提供を迫る文書を出していたことが発覚する。

 自衛隊法は、都道府県知事や市町村長に自衛官の募集に関する事務の一部を国に代わって行う「法定受託事務」として義務づけているとされる。地本は市が名簿を提供しないことをもって「法定受託事務を果たしていない」と非難したのである。この問題は今年3月、参議院外交防衛委員会で井上哲士議員が質(ただ)し、中谷元・防衛相は「不適切な要請だった」と認めている。

 獨協大学法科大学院の右崎正博教授が批判する。

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