籾井会長との対決は、これで終わらなかった。15年1月、上村氏は経営委員会の記者へのブリーフィングで籾井氏が発言を取り消していないことを再度批判。これに怒った籾井氏は浜田健一郎経営委員長を通じ「ブリーフィングは個人的意見を言う場ではない」と注意してきたという。

NHKは業務の執行について会長の権限が非常に強い体制ですが、重要な事項の決定権限は経営委にある。つまり、経営委は会長を監視する立場です。会長が経営委の発言に対してとやかく言うということ自体、本来あり得ない。籾井会長はガバナンスの意味がまったくわかっていないのです。理屈が理解できないから、議論になると大声で怒鳴ったり、席を立って出ていってしまったりする。『この年では考え方は変わらない』と言って、議論を逃げてしまうんです。まさに『反知性主義』的な人物なのです」

 15年春には、籾井会長が私的なゴルフで使ったハイヤーの料金がNHKに請求されていたことが発覚。国会で“炎上”したのは記憶に新しい。

「これだけ不祥事が続くのに局内から批判の声が上がらないのは、籾井会長が人事による露骨な“報復”を行ってきたからでしょう。籾井会長は就任早々、秘書室長を異動させていますし、自分が『敵』とみなした理事の担務も、勝手に変えてしまう。例えば就任時、唯一自分に同調した板野裕爾理事を専務理事に昇格させ、放送関係トップの放送総局長に据えた。前任の石田研一専務理事(当時)はコンプライアンス担当にしました。事実上の降格人事です」

 さらに露骨だったのが、籾井氏が塚田祐之氏、吉国浩二氏の2人の専務理事の担当分野を変えた人事だという。2人は、籾井氏が就任時に理事全員に日付の入っていない辞表の提出を求めていたことが国会で問題視されたとき、「辞表を提出した」と国会で最初に証言し、残りの理事全員が辞表の提出を認めるきっかけをつくっていた。

「籾井会長は国会で口裏を合わせるよう理事らに圧力をかけていたと聞いていますが、国会でウソをつけば証人なら偽証罪に問われる。両氏の行動は当然です。2人はその後、籾井会長に辞任を迫られたと聞いていますが、拒否すると事実上、閑職と言っていい営業部門の補佐役に追いやられた。意趣返しとしか思えません。そもそも放送法上、理事の人事には経営委員会の同意が必要。会長に勝手に担当を変える権限がないのに、籾井会長にはその理解がないのです。高額報酬の理事を、勝手につくった閑職に追いやっているのですから、民間なら、株主代表訴訟を起こされてもおかしくありません」

(本誌・小泉耕平/今西憲之)

週刊朝日 2015年11月27日号より抜粋