その数十分後には、パリ東部の10区、11区の飲食店や劇場など、少なくとも5カ所でテロが発生した。現場はいずれも今年1月の週刊新聞社「シャルリー・エブド」襲撃事件の直後に、100万人以上が集結し歴史的なデモを行ったレピュブリック広場の近く。各国首脳や市民らが、「テロとの戦い」に決して屈しないと誓った場所を、あえて汚すために狙ったとも言えそうだ。

 この界隈(かいわい)は飲食店や劇場が軒を連ね、パリの下町の飾らぬ雰囲気が魅力。週末の金曜夜には大勢の人でにぎわう。今回100人近くの犠牲者を出したのは、犯人が観客を人質に立てこもったバタクラン劇場だ。1864年の創立で、歴史的建造物にも指定される人気のミュージックホールだ。

 近年は日本人アーティストが欧州に進出する際のライブ会場となることが多く、これまでPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、GACKTなどが出演。事件当日はアメリカのロックバンド、イーグルス・オブ・デス・メタルのライブが開かれ、1500席が完売していたという。

 非常事態をある程度想定していたのか、フランス政府と自治体の動きは迅速だった。オランド大統領は非常事態を宣言し、異例ともいえる国境閉鎖を明言。夜間の外出禁止令を出し、レピュブリック広場駅を通過する地下鉄も停止した。

 パリ市は直ちに翌日の学校、美術館、図書館、プール、マルシェ(市場)の閉鎖を決定。不安な夜が更けてゆくなか、市民はフェイスブックなどのSNSを通し、友人の無事を確認し合っていた。

 シャルリー・エブド襲撃事件以来、フランスではテロに対する厳戒態勢が続いている。8月はパリ行き国際特急列車でテロ未遂事件、9月もパリのコンサート会場でテロ未遂事件があったばかり。市民は日々、武装した治安部隊とすれ違うことも多く、いやが応でも危険を意識せずにはいられない。

 オランド大統領が今年9月、シリアへの空爆を決めた際、国民の67%は空爆支持を表明していた。市民への犠牲が大きすぎる今回のテロ事件で、フランス社会は大きな揺さぶりをかけられた形だ。

週刊朝日 2015年11月27日号