「会社側の準備ができていなかったり、そもそもファクト(事実)の把握に不十分な点があったりしています。今回の問題はまさに会社の存亡がかかっている事態。本来なら経営資源すべてをつぎ込んで十二分な体制で対応する必要がありますが、そうした体制になっているのか、疑問が残ります」

 この問題で旭化成が会見を開くのはすでに3回目。危機に際した対応としては一見丁寧に見える。ところが、危機管理コンサルタント会社リスク・ヘッジ代表の田中辰巳氏は言う。

「致命的だったのは、最初の記者会見での、平居副社長の『3040件の中で傾いたのはこの1件のみ』『データ転用をしたのは1人だけ』という発言です。まだ調査をしてもいない段階でそのように言うことで、消費者や被害者に余計に疑心暗鬼を与えてしまいました」

 最初の会見が不信感を招いた発端だったというのだ。「自ら火に油を注ぐようなことをやっているようにしか見えません」(田中氏)という対応が続くことになる。

 旭化成建材の前田富弘社長は先月29日、データ改ざんをした現場責任者がかかわった建物が最も多い愛知県で知事に謝罪をした。

「ところがその際に、報道陣を避けて裏口から逃げたとか、夜討ち朝駆けをする記者を無視して通り過ぎたとか言われていますが、大人げなく感じが悪い。目の前の記者やカメラマンへの不快な気持ちが顔に出ていますが、それがそのまま消費者や被害者に対しての気持ちのように感じさせ、印象を悪くしています」(田中氏)

 さらに、会社全体のガバナンスが問われる事態となっている。

 当初、役員らは会見で「1人の現場責任者がずさんで、データ改ざんをした」と個人的行為と強調したが、その後一転、複数の現場責任者がデータ改ざんを行っていたことを認めた。2日には国交省が立ち入り調査を実施。「社内の体制に問題があるのではないかと調べています」(同省担当者)

 さらに、この問題について調べている社内調査委員会こそがガバナンスの欠陥を露呈しているというのだ。調査委員会のメンバーに名を連ねる平居副社長は、問題の時期に旭化成建材の取締役を務めていた。企業統治に詳しいペイ・ガバナンス日本の阿部直彦氏は言う。

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