1970年代に福島第一原発の作業員だった長尾光明さんが70ミリの被曝をし、98年に多発性骨髄腫を発病。04年に労災認定を受けた。原賠法に基づき東電に賠償を求めたが、東電は「診断が誤っている」として、国が認めた労災を否定。東京地裁もそれに同意した。

 高裁は多発性骨髄腫を認めたが、「高度な蓋然性で(被曝との)因果関係が証明されたとは言えない」とし、賠償を勝ち取れないまま長尾さんは亡くなった。

 その裁判に弁護団の一員として関わった元放射線医学総合研究所主任研究官の崎山比早子さんが言う。

「東電のやり方を見ていると、原発事故が原因でがんになっても賠償を認めない可能性がある。国は『100ミリ以下の被曝には統計的有意差がないから、がんを発症しない』としているが、ここ4年ほどでそれを覆す疫学調査結果が海外でいくつも発表されている。年20ミリが安全なんて、科学者なら誰にも言えないはずなのに、政治的な配慮から誰も言うべきことを言わない」

 これでは、福島の住民は救われない。

週刊朝日  2015年11月6日号