
フード&ワインジャーナリストの鹿取(かとり)みゆきさんが、日本ワインを紹介する。今回は、島根県雲南市の「奥出雲ワイン 小公子 2014(赤)」。
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島根県雲南市にある奥出雲葡萄園には、すぐに完売する人気商品「小公子」がある。山ブドウの交配種、小公子を使うワインだ。
1993年、栽培と醸造を担当する安部紀夫さんは、まだワインにあまり使われていなかったこの品種を、初めて仕込んだ。
「小粒で、熟すと甘く、色濃く変わる小公子。可能性を感じる一方で、メルロなどの欧州種よりも豊かな酸味が受け入れられるのか、じつは不安でした」と打ち明ける。
収穫量が380キログラムまで増えた頃、ちょうど使える樽に余裕があったので、樽で熟成させてみた。19カ月後、安部さんはこれまでにないおいしさを感じた。同時に注文も増えだした。欧州系の赤とは異なる穏やかな渋みと豊かな酸。小公子から造るワインに独特の、森やカカオのような香りを好む客が出てきたのだ。初めての仕込みから10年近くがたっていた。
今では「小公子」の人気に注目して、このブドウを育てたり、ワイン造りに挑戦したりするワイナリーも全国で増え始めている。
(監修・文/鹿取みゆき)
※週刊朝日 2015年10月30日号