この本の中に、美術館で主人公の学生を不当に注意する社会人が出てきます。最近、このような人が多いですね。自分より立場の弱い人を攻撃することで、自分が正当に評価されていないことへの鬱憤(うっぷん)をはらす。

 これは間違っています。ちゃんと評価されないのは政治が間違っているからだと考えるべきでしょう。不満は下ではなく、上にぶつけるべきです。

 私たちは歴史をもっと学ばねばなりません。第2次世界大戦で日本はどこをどう間違えたのか知らないままに、急に民主主義の国になりました。ドイツのように、戦争で自国がしたことを徹底的に教えなければならない。

 学ぶことは難しいことでも退屈なことでもありません。知的な喜びだと思うのですね。学べば、今世界で起きていることがわかるようになります。本も読んでほしいですね。活字から何かを学ぶということは、想像力を働かせる訓練になります。

 安保法案が通っても、戦争が起きないよう一人ひとりが歴史を学び政治を見ていれば、いつか安保法案をひっくり返すこともできるでしょう。私は説教臭くならず、あくまでエンターテインメント作家として、小説の中で主人公を通して社会の怖さを描いていきたい。

(本誌・平井啓子、永野原梨香、西岡千史/松元千枝)

週刊朝日  2015年9月25日号