作家東山彰良ひがしやま・あきら/1968年、台湾生まれ。福岡県在住。2002年、「タード・オン・ザ・ラン」で「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞。03年、同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』でデビュー。09年、『道傍』で大藪春彦賞受賞。『ブラックライダー』『キッド・ザ・ラビット ナイト・オブ・ザ・ホッピング・デッド』『ラブコメの法則』など著書多数。『流』で第153回直木賞受賞(撮影/写真部・東川哲也)
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作家
東山彰良

ひがしやま・あきら/1968年、台湾生まれ。福岡県在住。2002年、「タード・オン・ザ・ラン」で「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞。03年、同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』でデビュー。09年、『道傍』で大藪春彦賞受賞。『ブラックライダー』『キッド・ザ・ラビット ナイト・オブ・ザ・ホッピング・デッド』『ラブコメの法則』など著書多数。『流』で第153回直木賞受賞(撮影/写真部・東川哲也)

 選考委員の満場一致で第153回直木賞を受賞した東山彰良さん。しかし、受賞作の『流』が日の目を見ることがなかった可能性もあったと作家・林真理子さんとの対談で明かした。

*  *  *

林:主人公の秋生(チョウシェン)はお父さまがモデルなんですよね。

東山:そうなんです。

林:替え玉受験したり、ケンカしたり、いろいろひどいことを(笑)。

東山:実際、父は替え玉受験に加担して、進学校をクビになってるんです。ケンカのときに鉄の定規を自分の太ももに突き刺したというのは、父の友達の話です。最初、「ナイフで刺した」と書いたんですけど、父が「当時は鉄の定規を尖らせて使った」と言うので書き直しました。今回は最初に父と母に見せて……。

林:作家で両親に見せる人って、珍しいかもしれない。

東山:僕も最初で最後だと思います。初めて自分の親をネタに使ったので、2人に「不愉快だ」と言われたら、出すのをやめようと思ってたんです。

林:ちょっとォ……。私も、親のこと書いてますけど、他の作家もみんな、親がどう思おうが知ったこっちゃないという気持ちだと思いますよ。ご両親は何とおっしゃったんですか。

東山:父はわりと細かい指摘をしてくれました。さっきの定規のこととか、戦争の記述の間違いとか。母は僕がどんなものを書いてもほめるので、今回もほめてくれました。要するに2人は不愉快じゃないとわかったので、編集者に見せたんです。

林:じゃあ、ご両親の喜びもひとしおでしょう。

東山:父は喜びをあまり表現しない人ですが、実家に帰ったら書斎に本が並んでました。近所に配っているみたいです。母にはサインを頼まれたりしました。

林:この小説の前半の魅力はホラ話のおかしさにあって、ああいうのって中国の方独特だと思いましたよ。日本人はこんなに奇想天外なホラ話は考えつかないと思う。

東山:僕が子どものころ、ホラ吹きで口達者な大人が至るところにいて、僕、ウソか本当かわからない話を聞くのが大好きだったんです。自分も子どもをだまくらかす大人になりたかったんですけど、残念ながらそういう才能がなかったので、本ではちょっとでも近づきたいと思って。

林:ゴキブリのところ、宮部(みゆき)さんが「ヤダーッ」と言ってましたよ(笑)。

週刊朝日 2015年9月18日号より抜粋