「監督が私をイメージして書き下ろした役だそうで、主人公の名前も“多香子”。漢字は違うけれども、読みは私の名前と同じです。映画好きが高じてシナリオライターになった女性で、物語の中では、お蔵入りになった自主映画を製作する過去と、現在がオーバーラップしていく。今回は、観てくださる方たちの記憶の話だと思ったので、できるだけフラットな芝居を心がけました。そうすることで、観ている人たちが脳内で自身の記憶巡りができるんじゃないかと思って」

“空っぽになる!”と焦燥感に駆られた頃から、16年の月日が流れた。最近は、自分の中に眠っていた“アングラ好き”な部分が、どんどん表に出てきてもいるとか。

「一見難解なものは、想像を超えた未知の世界を見せてくれるから、たくさん悩みはするけれど、面白くて仕方がない。舞台の戯曲を読みなれていなかった頃は、やってみないとわからないことも本当に多くて、2006年に『タンゴ・冬の終わりに』という清水邦夫さん作の舞台に出演したときは、共演した段田安則さんに『この本は、どの辺りが面白いんでしょうか?』と訊きにいってしまったくらい(苦笑)。でも、千秋楽の日に、『何この世界、素敵!』って思った。以来、清水邦夫さんにハマりました。経験のない世界に飛び込むことは怖いけれど、今は、その先にある面白さを知ってしまったんです」

週刊朝日 2015年8月28日号