旅行も好きで、今年は夏目漱石のゆかりの地を巡るツアーにひとりで参加している。5月には2泊3日で本を訪れ、7月中旬には鎌倉・修善寺行きが控えている。

 こうした費用はどう捻出しているのか。松根さんは恵まれているほうだ。

「年金から使う生活費とは別の財布があります。娘が“遊び人のお母さんにはつきあえないからこれで遊んで”と年に2回、ボーナス時にお小遣いをくれたりして」

 1日3回の食事は自炊。「小食」なのであまり食費はかからないが、「野球をテレビで見ながら、トロの刺し身で日本酒をちびちび飲むのが楽しみ」だという。

 と言っても生活のすべてをひとりで行うわけでもない。友人や知人との会食も欠かさない。松根さんは、日本尊厳死協会の副理事長を務めていた。

「80歳を前に役職は降りたけれど、今も協会の会議に参加することがあるし、尊厳死運動や子供を通じての仲間、趣味の歌の仲間などとの食事は楽しみにしています」

 特に30年来続けている合唱団の仲間とは月に1回、定例ランチ会を開いている。

 松根さんの生活はひとりを満喫する時間と、誰かと共有する時間をしっかり分けているのが特徴だ。至って健康な松根さんだが、今年2月に、生まれて初めて帯状疱疹にかかった。

「“もしも”にも備えています。賃貸なので何かあればすぐに家を明け渡さないといけないから、遺品整理会社に家を見に来てもらったし、安否確認で週1回は娘にメールをしています」

 松根さんは自分の骨は海に散骨、無理な延命もしないと決めて手続きをした。

「もう少し人生をエンジョイするつもりだけど、最後まで自分らしくと思うなら、終わり方を決めておかないと。それがハッピーな老後の鉄則ね。独り身ならなおさら」

週刊朝日 2015年7月17日号より抜粋