あくまで生理現象のため、誰もが一日、一定の量をおならとして排出しているが、回数が多かったり、においが臭かったりすると困る場合が多い。また、おならにはさまざまな病気が背景に隠れている可能性もある。

 例えば、口から飲みすぎた空気が腸内にたまる「呑気(どんき)症」はおならや腹痛などの症状が出る。腸管に異常がないのに胃がけいれんしたような状態になってしまう「過敏性腸症候群(IBS)のガス型」などもおならの回数が多くなる疾患の典型だ。それ以外にも、大腸がんになると玉ねぎの腐ったようなにおいのおならが出ることもある。

 大林医師によると、クリニックに来る患者の中には、はっきりと診断をつけられる患者以外に、原因不明のケースも多く、診断は難しいという。

「診断は患者さんの便の状況を把握したり、話を聞いたりすることから始めます。例えば『おなら以外で腹部の症状があるかどうか』や『おならが出る瞬間がわかるかどうか』など、さまざまな角度から質問をして、診断をしていきます」(大林医師)

 診断の結果、桜井さんは典型的な過敏性腸症候群のガス型だった。

 過敏性腸症候群は検査では異常がないのに、腹痛や腹部の不快感とともに、下痢や便秘を慢性的に繰り返す病気だ。症状別に大きく下痢型、便秘型、混合型、ガス型の四つに大別される。どのタイプもストレスが関係しているが、特にガス型においては、それが顕著だ。治療には薬物療法に加えて精神療法が必要になる。

 薬物療法では腸の状態を整える一般的な整腸剤に加えて、消化管内のしゃぼん玉のようなガスを破裂させる薬のジメチコン(商品名:ガスコン)や不安を和らげる向精神薬も効果的とされる。一方の精神療法では困っている状況を確認したり、整理したりすることで打開策を一緒に検討するなどの方法をとることが多い。

「過敏性腸症候群はいまだに治療体系が確立されていません。さらに、その中でもガス型はもっとも治りにくいとされています。ガス型以外の治療では薬物療法と精神療法の併用で治療に臨むことが多いですが、ガス型は特に精神的な作用が大きいので、まずはカウンセリングを兼ねて話をじっくりと聞くことから始めます。必要に応じて薬物を処方することもあります」(同)

週刊朝日 2015年7月17日号より抜粋