「報道ステーション」での「政府の圧力」発言が、自民党による事情聴取に発展、議論を呼んでいる古賀茂明氏。作家の室井佑月氏との対談で、テレビ局の在り方について議論した。

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室井:負のスパイラルができているんですよ。今、権力側にマスコミがべったりで、スクープあげる必要がないじゃないですか。政権のリーク情報でいいんだから。読者の味方がいないから、余計に権力に擦り寄る。日本は新聞社もテレビ局もありすぎるじゃないですか。それで生き残ったら売れると思っているけど、読者がその正義を信じられなくなってきているんです。

古賀:僕は「報ステ」というのはある意味、世論のひとつのメルクマールになる番組だと思う。NHKのニュースもみんな見る。だいたいマスコミは「報ステ」、NHKを見て、その次の日以降のいろんな論調の基準にするわけです。中でも「報ステ」は、かなり踏み込んで政府批判もする番組だと視聴者は思って見ているわけです。だからこそ、頑張らないといけない。

室井:今のメディア構造が気持ち悪い。他の国だったら自分の思想によって、読んだり見たりするものが違うでしょ。中立公平と言ってもウソなのに、それをメディアは謳いすぎると思うの。うちの考え方はこう、と正直に言ったほうがいいし、売れると思わない?

 
古賀:アメリカは、そもそも放送局に中立とか公正を求めることが憲法違反だ、という考え方に変わっているんです。昔は、フェアネス・ドクトリン(公平原則)という「公正じゃないといけない」というのがあったけれど、スリーマイル島の原発事故の時に、地元の放送局が原発の構造とか、政府批判とかをガンガンやったんですね。それで、政府はフェアネス・ドクトリンをタテにして、「お前の放送はやりすぎだ」という指導をしたが、廃止になった。政府がけしからんと言う人もいれば、いいと言う人もいて、全体でバランスが取れるんだから、一つのテレビ局の中で、全部のバランスをとれというのがおかしい。そもそも、他の先進国では政府が直接、放送局に免許とかで介入するというのがないんです。普通は独立委員会で、政府はそこに関与してはいけないんです。

室井:そうなったらおかしいもん。国がこうする、という情報は、政権のリーク記事じゃん。それが選挙間近になったら批判できないとなると、全く公平じゃないもの。

古賀:公平にするなら、政府と反対のことを言う人の声を多く取り上げることによって、やっとバランスがとれる。テレビ局はいっぱいあって、現に、日本テレビ、フジテレビとTBS、テレ朝は全然トーンが違う。だから全体としてバランスがとれているわけですよ。日テレ、フジが政権寄りのことを言っているから問題かと言うと、全然そうはならない。結局、一般の人は自分なりの基準を作るしかないんですよ。例えば、室井さんが好きならそうだと同調するとか。

室井:私だって番組によって言えること、言えないことがあるから、嘘はついてないけど寸止めはするかな。「発言をちょっと抑え気味に」と言われたこともある。反対意見の偉い人が出て、ヨイショで番組を作る時とか「ちょっと黙ってて」と言われる。だけど私は「すごいですね」とかは言わないんです。そうすると、味方である人たちから「なにヒヨっているんだ」と言われるんですよ。ケンカして負けたら、「負けやがって」と言われますしね。

古賀:僕は、思ったことを言ったり書いたりという役割。世の中には、ただ書く人もいれば、活動家とかいろんな役割の人がいる。室井さんみたいに、いろんな面白い話をして、政治に触れてこなかった人が触れるきっかけになるとかね。

(構成 本誌・山岡三恵、牧野めぐみ)

週刊朝日  2015年5月22日号より抜粋

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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