「ピンでやっていくことに、試行錯誤した時期もありました。でも、2004年に『ミス・サイゴン』のエンジニア役で、初めて帝国劇場の舞台に立った。劇団を辞めていなかったら、現在のような形で帝劇の舞台には立てなかった。人は何かを失ったとき、それに固執してしまうと前に進めなくなる。でも、前さえ向いていれば、その“喪失体験”は、未来の肥やしになるんだとわかって」

 劇団を辞めたことで理解できた“本来の自分”もいた。新感線時代は、若さに任せて強面を演じていたところがあったのだとか。

「でも、自分自身を演じなくてよくなったときに、やっと演者としての自覚が得られた気がします」

「こんなこと言ったら、(演出家の)いのうえひでのりさんに怒られるかもしれないですけど」と前置きしながら、「新感線の舞台って、“◯◯風”なんですよ」と橋本さんは言う。

「ロック風、オペラ風、歌舞伎風……。基礎なんかないまま、◯◯風を真面目にやってただけですが、続けていたらそれがオリジナルになってた。“どんなことも本気でやる”姿勢は、新感線で鍛えられました」

 昨年初演された韓国発ミュージカル「シャーロック ホームズ」では主役のホームズを演じた。今回上演されるシーズン2では切り裂きジャックと対決する。

「ずっと“◯◯風”でやってきた人間が、イギリス人のヒーローを演じるのはおこがましいんですけど……。でも、“橋本さとしならこの役”という代表作を作りたい。自分の存在を、人の記憶に残していきたい。体だけは無駄にデカいんで、残像もデカいはずなんですけど(笑)」

週刊朝日 2015年4月17日号