半世紀以上、歌謡界のトップランナーとして走り続けてきた「サブちゃん」こと北島三郎さん(78)。一昨年の「紅白歌合戦卒業」に続いて、今年1月、劇場での長期座長公演にも終止符を打ち、新たなスタートラインについたところだ。その最後の座長公演の舞台を共にした愛娘の水町レイコさん(40)と、はじめての“父娘対談”が実現した。
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北島(以下・父):一朝一夕に「北島三郎」になったわけじゃない。寒い思いもしょっぱい思いもしてきた。有名になるとそれを隠す人もいるけど、オレは誇りに思っている。だから堂々と話す。ただし苦労は「売りもの」じゃない。体験談として話すんだ。
水町(以下・娘):ほかにも「出会い、人の縁を大事にしなさい」ってパパとママによく言われたよね。
父:流しをやっていたころ、ちょっと歌を聞いて千円くれた人がいた。3曲100円の時代だよ。「明日、新橋のブルボン(喫茶店)に来なさい」って。半信半疑で行ってみたらその人は日本コロムビアの宣伝部長で、その日に船村徹先生を紹介されて……。人との出会いは大切にしなくちゃね。それが北島三郎のスタートだからね。ひとりじゃ、誰も生きていけない。
娘:私もこの世界で仕事をしていてそう思う。
父:ほかに言いたいこともある。相撲の横綱のように芸事に完成はないということ。立ち止まっているわけにはいかない。「紅白卒業」も長期公演の見直しもすべて再出発。終着駅は始発駅でもあるわけだから。
娘:でも、健康には注意してね。私も背中を見ながらがんばっていきたいと思っているよ。
父:あなたも役者以外に声優もやっているけど、オレにはまねできない。「よくやってる」って思うよ。
娘:何でもチャレンジだよ。
父:オレだって、まだまだやる。この年になったって、若い人や一般の人を見て勉強になることばかり。芸事に完成はない。
娘:こんな元気な78歳、見たことない。
父:試してみようって、いただいちゃうこともある(笑)。いつまでたっても、何かを探しているんだよ。人と出会って何かをあげたり、もらったり。
娘:そんなパパからいつもエネルギー、もらっているよ。
父:あせらないと遅れるし、あせれば疲れる。でも老ける必要はない。ライバルと勝負もしなきゃならない。いくつになっても人は旅人なんだよ。何かを探して歩き続ける。戻ることはできない。いつか立ち止まる日は来るけれど、それまでがんばって歩かなきゃならないんだよ。
※週刊朝日 2015年4月10日号より抜粋