岡崎城の徳川家康像
岡崎城の徳川家康像

 徳川家康没後400年という節目の今年、天下分け目の関ケ原合戦の全貌を明らかにする展覧会「大 関ケ原展」が開催される。この展覧会のスペシャルサポーターを務めるのは杏さん。自他ともに認める“歴女”の彼女に、おススメの歴史小説を聞いた。

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 今日の着物は、「雪輪(ゆきわ)」という雪の結晶の形から生まれた文様になっています。

 もともと着物を着たりするのがすごく好きで、幼稚園の卒業文集にも、将来は「着物を着て絵を描く人になりたい」なんて書いてありました。だいたい女の子はケーキ屋さんかお花屋さんなんですけどね。われながら不思議ですが、そのころから和とか歴史っぽいものが好きだったのでしょう。

 きっかけは、いろいろなことが重なっています。まず、中学校の歴史の授業が幕末にさしかかったときに、みんなで勉強したのがすごく面白かったこと。ちょうど『風光る』という新選組を描いたマンガが流行(はや)っていたというのもあるし、歴史に造詣の深い祖父のおかげでもあります。歴史について聞くと、祖父は自分の持っている本や、切り抜きのスクラップを送ってくれました。

 モデルの仕事を始めたのも同時期でした。仕事でいろんな場所に行く機会ができましたから、行く先々の歴史を調べたり、史跡を見たりしているうちに、どんどん歴史好きになっていきました。

 そのころに読んだのは、祖父がくれた池波正太郎さんの『幕末新選組』。新選組の隊士の中で永倉新八(ながくらしんぱち)が主人公なのが新鮮でした。続けて読んだのが、副長・土方歳三(ひじかたとしぞう)の生涯を描いた司馬遼太郎さんの『燃えよ剣』でした。

 ちょうど父(渡辺謙さん)がドラマ「壬生義士伝(みぶぎしでん)」で主人公の新選組隊士、吉村貫一郎役を演じたのも同じころ。原作の浅田次郎さんの小説ではじめて知る人物だったので、とても興味深く見ました。

 新選組にどっぷりとハマっていましたから、中学の卒業旅行は友だちと「新選組の旅」といって京都へ行ったくらいです。幕末は、いろいろなところからそれぞれの思いを持った人たちが1カ所に集まってまざりあい、闘いあったところに魅かれます。

 新選組好きの私は、これまで佐幕派寄りでしたが、今年のNHK大河ドラマは長州が舞台。これを機会に、倒幕派の視点を改めてお勉強し直したいなと思っています。

 幕末だけではなく、戦国時代も好きです。2月の初めには、司馬さんをしのぶ「菜の花忌(き)」のシンポジウムに参加させていただきました。大坂の陣と豊臣家の滅亡を描いた『城塞(じょうさい)』がテーマでした。上中下3巻でけっこうボリュームがあったので、時間をかけて読み込みました。

 この時代の小説でしたら、加藤廣(ひろし)さんの『信長の棺(ひつぎ)』も面白かったです。織田信長にまつわる謎をめぐるミステリーです。信長も好きですが、信長の娘・冬姫の旦那さま、蒲生氏郷に(がもううじさと)も魅力を感じています。葉室麟(はむろりん)さんの『冬姫』を読んだのですけど、氏郷は実直で頭も良くて自分の家族を大切にする。とても誠実なイメージがあって、そんなところがすてきだと思います。

 女性だと、石田三成の家臣の娘で「おあん」という方が気になっています。おあむとも書かれるのですが、まず、私と名前が似ている(笑)。関ケ原合戦当時、まだ若いであろうおあんは、両親や弟と大垣城に籠城しました。そのときの壮絶な体験を、おばあさんになった彼女が語った回想記『おあん(む)物語』が今に伝わっています。

 おあんは戦(いくさ)となれば、鉄砲の弾を鋳造(ちゅうぞう)したり、味方が取ってきた血まみれの首に札をつけたりもする。幼い弟が敵の鉄砲で撃たれて死ぬのをまのあたりにもしています。多くの生き死にを目の前で見て、行動している。か弱くて、ただ家の中で守られている存在ではないんですよね。読むと、自分の中にある当時の女性のイメージがどんどん変わっていく。とても興味深いです。

 歴史は実際にあった人間同士のドラマです。歴史小説を読むことで、現代の私たちが得られるものがたくさんあります。精いっぱい学んで、明日への活力にしていきたいです。

(構成 本誌・横山 健)

週刊朝日 2015年4月3日号