10月23日、プロ野球の新人選択(ドラフト)会議が都内ホテルで行われた。野球通の作家として知られる、直木賞作家・木内昇さんがその様子をレポートする。
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運命の日である。ドラフト会議当日。自分の能力や培ってきた技術がどう評価されるのか――。プロ志望届を提出した選手たちの緊張と昂揚を想像するだに、こちらまで手に汗にじむ。
今年はふたりの投手に注目が集まった。まず早稲田大の右腕・有原航平。カーブ、スライダー、ツーシーム、カットボールなど多彩な変化球を同一フォームから繰り出す俊英。4チームが1位指名し、日本ハムが交渉権を獲得した。もう一人、済美高の安楽智大(ともひろ)は2チームが1位指名。楽天が交渉権を得ると表情をほころばせた。「ドラフト1位でプロになるのが夢だった」。先月急逝した上甲(じょうこう)正典監督との約束を胸に、最速157キロの剛腕を大舞台で披露する日も近い。
この夏甲子園を沸かせた選手の中で最有力視されていたのが、智弁学園のスラッガー・岡本和真だ。将来の4番候補と期待され、巨人が単独で1位指名した。
一方、希有な資質を見込まれつつも評価の予測が難しかったのが、盛岡大付の右腕・松本裕樹。183センチ、高校3年間で体重も増やして体を作り込んだ。全身をしならせる柔らかなフォームが特徴で、150キロの直球に加え、コースをつく変化球を自在に操る技巧派な側面も持ち合わせている。が、右肘故障をおして出場した甲子園では、3回戦で途中降板。プロ志望届も締切直前まで提出されなかったのだが、ソフトバンクが1位指名し、無事プロの扉が開かれた。
野球センスに秀でた選手があまたいる中、プロになれるのはほんの一握りだ。この日、選出された選手にも、今後さらに厳しい野球人生が待っている。1位指名されても安泰ではない。反対に、メジャーで活躍するイチローや青木宣親のように4位指名から頭角を現す例もある。
ドラフトは重要な運命の起点だ。けれど誰の運命も、一日で決しはしない。地道な積み重ねではじめて形を成すはずなのだ。
※週刊朝日 2014年11月7日号