気候変動により、1950年より前は栃木県北部が北限だったヒトスジシマカの分布は、現在は青森県にまで広がった。緑が多く、常に大勢が集まる代々木公園は、デング熱が広がる条件がそろっていたわけだ。

 ちなみにデングウイルスは四つのタイプがあり、今回の流行で見つかったのはI型だ。どういう病気なのか。都立墨東病院感染症科の小林謙一郎医師は、「致死率が低く、しっかりフォローすれば治っていく病気。決して怖い病気ではない」と解説する。

 ヒトスジシマカやネッタイシマカが媒介したデングウイルスの感染で起こるデング熱は、蚊に刺されてから1週間前後で発症。初期症状は高熱や関節痛、頭痛などだ。感染した全員が発症するわけではなく、5~8割は症状が出ない。症状の程度もさまざまだ。

 川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は、仕事でフィリピンに滞在していたころ、本人以外の家族全員がデング熱にかかった。そのときのことをこう振り返る。

「全員に発熱があり、熱は上がったり下がったりを繰り返した。サッカーができるぐらい軽症の子もいれば、熱とだるさで寝込んでいる家族もいました」

 高熱は1週間程度続いた後、徐々に下がる。この時期にみられるのが発疹だ。皮膚が赤くなり、白く色が抜けたように斑点ができるのが典型的。手や足がむくみ、かゆくなることもある。

 現段階ではウイルスに対する治療薬が存在しないので、対症療法が中心。消炎鎮痛薬のアセトアミノフェンを使う。アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド系消炎鎮痛薬は、症状を悪化させる危険性があり、用いない。

 まれだが、重症化して「デング出血熱」を発症することもある。

「血液成分が血管外に漏れたり、血液を固まらせる作用のある血小板が減ったりして、出血しやすくなるといわれています。肝臓など内臓の機能が低下することもあり、入院して点滴による治療が必要になります」(前出・小林医師)

 昨年までの状況をみると、出血熱まで進行したのは、感染者全体の4~5%。死亡例はゼロだ。免疫力が弱い乳児や妊婦、高齢者、糖尿病などの持病を持った人は重症化しやすいという。

 気になるのは、来年以降の流行だが、前出・岡部所長はこう推測する。

「今回の流行は、おそらく冬に向かって一度、落ち着く。しかし、海外との行き来がある限り、来年以降も国内感染は起こり得るでしょう。国内感染を避けるには、『蚊は病気を媒介する存在』と認識し、一人ひとりがきちんと防蚊対策をとることです」

 虫除け剤は「DEET」という成分が含まれているものが有効だが、日本で市販されているものは、効力が弱い。その分、こまめに塗ることが大切だ。

(本誌・上田耕司、小泉耕平、福田雄一、牧野めぐみ、山内リカ/今西憲之、黒田朔、三杉武、横田一)

週刊朝日 2014年9月26日号