親が亡くなったあとや同居を始めるタイミングで直面する「実家のかたづけ」問題。驚きの経験をした娘2人の話をご紹介する。

 押し入れの奥で、鈍色に光る細長い物体。手にすると、ずっしり重たい。引っ張り出したら、なんと日本刀だった!

「お母さん、何これ?」
「無断で持ってたら捕まるかも……」
「警察呼ばなきゃ!」

 都内の会社員Aさん(36)が2年前、北海道にある母(67)の実家の整理を手伝った時のことだ。問題の日本刀は、亡き祖父が古美術商で購入していたもの。登録証があったので事なきを得たが、Aさんの母は「なんでこんなものが!」と憤慨していた。

 こんなハプニングは稀でも、「実家のかたづけ」には驚きがつきまとう。思いも寄らぬ親の暮らしぶりに触れ、戸惑う場面も少なくない。だが親が高齢になったり死亡したりすれば、子どもにとっては避けて通れない道。戦中戦後の「モノがない時代」を生きた親世代と、高度成長期に育った子ども世代の価値観の違いが浮き彫りになる局面だけに、衝突はしばしば起こる。

「まさに『父の壁』でした」

 そう話すのは都内に在住するフリーライターで独身のBさん(54)だ。昨年暮れ、独居の父(87)が心配になり同居を決意。長年暮らした海外から帰国した。

 父は現役のころは建築設備関係の仕事に就く、典型的な〝昭和の頑固オヤジ〟。家のことは全て自分で決めないと気が済まない。

 例えばBさん宅のリビングに居座る冷凍専用庫。7年前に他界した母が生前「冷凍庫がもうひとつあったら便利ね」とつぶやいた直後、父があっという間に購入してきたシロモノだ。

「当時、母が『パンフレットを見て選ぶ楽しみもなかった』と嘆いたんです。すると父は『せっかく買ってきてやったのになんだ!』。面倒くさい人なんですよ」

 同居を前にBさんが実家のかたづけに着手した瞬間から〝戦争〟が勃発。ことあるごとに捨てる、捨てないで、もめた。

「それはまだいる」
「だって使ってないでしょ」
「いつか使うんだ!」

 使い切れない量の「柳屋ポマード」にヘアリキッド、100本単位のワイヤハンガー、大量の五寸釘、100個以上の石けん……。

「カミソリの刃なんて来世でも使えるぐらいありましたね(笑)」(Bさん)

 それらを処分しようとするたびに苦労した。ゴミ捨てはずっと父の日課で、同居後もそれを続けてもらったのが仇になった。

「ゴミ袋の中身を必ずチェックし、『なんで、これを捨てるんだ!』って」
 そこでBさんは秘策を考えた。“検閲”が入りそうなゴミ袋は朝まで隠し、父がゴミ出しを終えた後、収集車到着ぎりぎりに走って持っていく。名付けて「駆け込み収集作戦」。これでかなりの量の処分に成功した。

 衝突続きのBさんだったが、最近は頭ごなしに「いらないから捨てよう」と言わなくなった。父が今春、体を壊して入退院を繰り返し、めっきり弱気になってしまったのだ。もう袖を通すことがない20枚のワイシャツ、勤めていた会社のロゴが刺繍された作業着、仲人を頼まれたときに誂えたモーニング……。

「やせて小さくなった父の体に合わないと知りながら、『まだ着ることがあるかも』と言われれば、『そうね』とタンスにしまい直すんです」(Bさん)

週刊朝日  2014年9月19日号より抜粋