西武のエースとして目覚ましい活躍を見せる菊池雄星。その力量に西武元監督の東尾修氏も感嘆している。

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 西武の菊池雄星を8月13日のオリックス戦(西武ドーム)で見た。9回無失点で自己最多の14奪三振。俺が見た中では、ここ2年で一番の投球だったのではないかな。9回、140球を超えても、速球は148、149キロを出していた。やればできるじゃないか。

 ワインドアップからの投球フォームは、肩に力が入らず柔らかかった。体全体を使って腕の振りにつなげていた。躍動感があった。球数を重ねても球速を出せたのは、体のしなやかさがあったからだ。疲れも少なかったはずだ。速球で空振りを数多く取れていたのも、打者から見て手元で球の威力があった証拠だよな。

 雄星は、ちょっと調子を落としたり、打たれたりすると、すぐにひじの位置を下げたり、テークバックを小さくしたり、コロコロとフォームを変えてきた。本質が見えていないのだろうな。自分の良さがどこにあるのか、プロで生きるために何が必要なのか。そのためには根気や、頑固な部分が必要になる。制球力をつけるためにフォームをおとなしくしてどうする。セットポジションから投げるだけで制球が良くなるなら、全員がそうするよ。

 ストレートのキレと勢いで生きる投手だと自分で再確認できたはずだ。投球フォームをいじくって制球力を上げるのでなく、投げて自信やコツをつかむ中で感じていくことが大事だ。この試合も5四死球があったけど、この程度で気にする必要はない。コーナーにすべての球が制球よくいくより、荒々しいほうが打者だって的は絞りづらい。

 メジャーで制球難と言われた松坂大輔(メッツ)が最初に何を考えたか。「球数の多さは気にしない。捕手の構えと違うところに投げても、真ん中にいかなければいい」と話していたよ。制球を良くしようとして、自分を変えることはしなかった。自分の長所はどこにあるか。長所を消してまで短所を修正しようとすると、すべてがおかしくなることを知っている。その考え方は、雄星にも当てはまると思うよ。

 近年、本当にスケールの大きい左腕投手が育っていないよな。投手成績の上位を見ても、両リーグともに右投手が多い。工藤公康、石井一久、杉内俊哉(巨人)、和田毅(カブス)のように、日本を背負って活躍できる若手左腕が出ていない。

 雄星が快投した同じ日に、楽天のルーキー左腕、松井裕樹も先発でプロ初勝利を飾った。2017年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一奪回を目標にする侍ジャパン。この2人がこれから順調に育って代表入りするくらいにならないと。それだけの素質はあるのだから。

 昨年のWBCでも、中南米の国は特に左腕に弱いというデータがあった。左腕の杉内、能見篤史(阪神)、山口鉄也(巨人)らが出場したけど、次の大会は年齢的に微妙だよな。先発に最低2人、救援も2枚は左投手が必要だよ。そうなると現状では物足りない。右投手は、国内でも大谷翔平日本ハム)、藤浪晋太郎(阪神)、菅野智之(巨人)、小川泰弘(ヤクルト)らが、順調に力をつけている。左投手も出てくれば、小久保裕紀監督の投手起用に選択肢が増えるのだけどな。

 雄星は13日の投球の映像を常に手元に置いておくのがいい。そして、同じ形を続ける。自信と根気を持って、継続していくことだ。

週刊朝日 2014年8月29日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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