作家の司馬遼太郎が少年のころからあこがれ、ずっとひいきにしていた国、モンゴル。近代化も進んでいるが、いまも民族の基本に「遊牧」があった。
モンゴルの夏の祭典、ナーダム。競馬のゴールライン付近には、多くの人々がつめかける。
<少年少女が騎手になり、無数の馬が、三、四十キロのコースを一気に駈けるのである>(『草原の記』)
息子や娘、愛馬を見ようと、ゴール地点は押し合い状態だった。中継の大型スクリーンの前で携帯電話をいじっていると、
「ドコモですね!」
と、話しかけられた。
「東京外大に留学していました。もっとニッポン、頑張って。中国に負けないで」
と、励まされた。昔から日本びいきが多い国でもある。
そのうちますます混んできた。老若男女が詰めかけ、肩や背中にごつごつ当たる。さらにものすごい力で押され、腹が立って振り向くと、人ではなく馬の大群。馬に乗って見物中の「遊牧の後裔」たちだった。
※週刊朝日 2014年8月15日号