近ごろ介護の知識と技術を持った専門の添乗員が同行してくれるバリアフリーツアーが増えている。旅を通して気持ちが晴れ晴れし、病状の回復も見られるという。

「介護が必要な人や四肢が不自由な人にとって旅行はメリットが多く、患者さんにも勧めています」

 と話すのは、高齢者や障害者の旅行に詳しい三軒茶屋リハビリテーションクリニックの長谷川幹院長だ。

「日常の外出もおっくうになるのだから、旅行は相当ハードルが高い。だからこそ、それができるようになると大きな自信につながります」

 長谷川医師によると、普段なら躊躇(ちゅうちょ)することでも、旅先では「せっかく来たのだから」と意欲がわき、能力を発揮しやすい。できたことが自信につながり、日常生活においても「挑戦しよう」とする前向きな気持ちが生まれてくるという。

 こうした効果は旅行に出る前から表れる。旅という目標が生まれることで、「それまでにもう少し長く歩けるようになりたい」などといったその人なりの目標が生まれ、リハビリにも熱が入るのだ。加えて、非日常を体験する精神的なリフレッシュ効果も期待できる。長谷川医師の患者の中にも、顕著なリハビリ効果が表れているという。

「パーキンソン病で食事や排泄、立ち座りも一人ではできなかった80代の女性が、旅行に行くようになってから自分で食事ができるようになりました。また、以前は聞き取りにくいささやき声しか出せなかったのに、旅行の後は電話で話ができるように」

 
 家と病院を往復するだけの毎日だった高齢者が、旅を通してツアー仲間と親しくなり、旅の後も食事会を企画するなど外出や交流を楽しむようになった例も多いという。

「特に女性は化粧やマニキュアなどおしゃれを楽しむようにもなり、心身ともに若返る印象がある」

 近年は、体力に自信のない高齢者や車いすの人でも参加できるツアー商品も登場している。1998年から車いすや杖の人を対象にした専門のツアーを販売している旅行会社のクラブツーリズムでは、要介護5の80代男性が半年に1度の旅行をするようになってから、要介護2まで改善した例があるという。

 また、大手のエイチ・アイ・エスでも、2002年に専門部署であるバリアフリートラベルデスクを開設した。同デスク所長で介護福祉士や福祉用具プランナーなどの資格を持つ伴流(ばんりゅう)高志さんは、開設の経緯についてこう説明する。

「一般のツアーにも障害があるお客様の参加が増えていましたが、こうした人たちを想定して企画されていないため、行けない場所もあった。障害がある人や体力に自信のない高齢者にも満足できる旅を提供するためスタートしました」

 同社のバリアフリーツアーでは、介助の訓練や専門知識の研修を受けた添乗員が同行する。伴流さんのように介護の専門資格を持つスタッフもいるという。添乗員は食事、入浴、排泄など日常的な介助はしないが、乗り物などでの移動の際は必要に応じてサポートする。個別に援助が必要な場合は、健常者の家族が同行するか、旅行代金を負担する必要があるが専属の旅行介助を紹介してくれるという(割引あり)。

週刊朝日  2014年7月25日号より抜粋