創業以来4代続いた名門の世襲企業サントリーが、コンビニ業界から新たなトップ、新浪剛史会長(55)を10月1日付で社長に迎える。新浪氏の起用は成功するか否か。「プロ経営者」について、2006年、証券取引法違反事件の渦中にあったライブドアの社長になり注目された平松庚三(こうぞう)氏(現・小僧com社長)はこのようにいう。

「新浪氏の起用が成功するかは、受け入れるサントリー側にかかっている部分も大きい。佐治氏と新浪氏で、責任の範囲や権限をどのように分担するか。最初の半年ほどは『ハネムーン期間』でも、その後はケンカするくらい率直に意見が言えるようでないといけないでしょう」

 プロ経営者を起用する流れが広がると、日本ではなじみ深い「世襲型」経営はすたれてしまうのか。経済評論家で『よい世襲、悪い世襲』(朝日新書)の著者の荒和雄氏はこう主張する。

「世襲にも長所はあります。後継者に若いうちから経営学を学ばせたり、他社で修業させたりと、じっくりと教育する時間がありますし、短期間で結果が求められる『プロ経営者』に比べ、創業者の理念を受け継ぎ、長期的な視野で会社のブランドを育てられます」

 同族経営の企業でも、自社商品を海外へ進出させた伊藤園や月桂冠など、優秀な後継者を育成し、果敢にグローバル展開に挑んでいる例は数多くある。

 一方で、こんな弱点も。

「通信販売の『ジャパネットたかた』や自動車大手のスズキは、ともに現社長の息子が『次期社長』と言われて幹部を務めていますが、なかなか世代交代が行われない。カリスマ社長だけに、息子に事業を任せることをためらっているようです」(前出の経済ジャーナリスト)

 とはいえ、日本企業の9割を占めると言われる中小企業では、まだ圧倒的に「世襲」が主流だ。

「特に地方では、地域の特産品を扱う飲食店や旅館など、中小企業が地域の経済や文化を維持するのに貢献している。こうした企業の存続に世襲は必要不可欠です。サントリーのようにグローバル展開を目指す大企業とは分けて考える必要がある」(荒氏)

 今後、プロ経営者のリリーフ登板は普及していくのか。こんな疑問の声もある。

「日本では『プロ経営者』となれる人材の数が少なすぎる。一度入った会社に一生勤める意識がまだ強く、外に出る人材が育たない。普及には時間がかかると思います」(前出の友田氏)

 前出の平松氏も、こう指摘した。

「『人と違うことをするな』と教えられ、良い学校、有名企業に入ることを目的とする今の日本の教育では、将来の経営者は育たない」

 新浪サントリーの挑戦は、日本の企業風土を変えられるか。

(本誌・小泉耕平)

週刊朝日  2014年7月11日号より抜粋