夏が近づくと誰もが気になる、汗と体臭の問題。人と会ったり、大勢の人の目にさらされたりする職業の人には特に深刻だが、本人が気にするほどではないことも多いという。多汗症とわきがは別の病気だが、汗を抑える治療がわきがに有効なこともある。

 東京都在住の会社員、橋詰真梨さん(仮名・24歳)は、子どものころから汗かきの体質だったが、20歳のときからわき汗が止まらないことが気になりだしていた。白い服を着たときに汗ジミが目立ち、制汗剤を使っても一向によくならず嫌な思いをしていた。インターネットで調べ「多汗症」のことを知り、近所の皮膚科で相談した結果、診断は「腋窩多汗症(えきかたかんしょう=わき汗)」だった。

 わき汗は、正式には原発性局所多汗症のなかの腋窩多汗症という。精神的に緊張するなど、何らかの理由で交感神経が失調すると、体温調節のための発汗の役割を果たすエクリン腺から過剰に汗を放出する症状だ。頭部、顔面、手のひら、足、そしてわきの下によく見られる。先天性の場合が多く、幼少期から汗をかきやすいが、思春期を過ぎて汗を意識しだすと症状が強くなることも多い。

 腋窩多汗症の標準治療は塩化アルミニウムの塗り薬が第一選択だ。初めは毎日わきに塗り、効果が出れば回数を減らして続ける。約8割の患者はよくなるが、この治療では橋詰さんの症状は改善しなかった。

 そこで、第二選択であるボトックス治療を受けた。この治療は健康保険が使え、汗腺の働きを抑えるA型ボツリヌス毒素製剤をわき汗の範囲に10~15カ所ほど注射する治療だ。通常は、この治療を一度受ければわき汗はほぼ改善し、4~9カ月は汗が止まる。しかし、橋詰さんはそれでもわき汗を抑えられなかった。

 
 そして2年前、22歳で就職したときに、知り合いの情報をもとに、多汗症の治療で有名なNTT東日本関東病院ペインクリニック科を受診、安部洋一郎医師の診察を受けた。

 安部医師は、多汗症の従来の治療である、緊張時に働く交感神経を遮断することで汗を止める胸部交感神経ブロックや胸腔鏡下交感神経遮断術を1998年から実施している。しかし、わき汗の場合は、汗を止めるために交感神経を複数箇所切断しなければならず、ほかの部位から汗が出ること(代償性発汗)が多い割にわき汗が止まりにくい場合がある。そのため、橋詰さんには、わき汗の標準治療である、ボトックス治療を再度試みることにした。

「ボトックス治療は、注射の打ち方の角度や深さによってうまくいかない場合もあるのです。通常、皮膚から2ミリところに45度で打つのですが、治療を数回受けているなどで、皮膚が硬くなっているとうまくいかないこともあるため、1カ所の薬の量を減らして、打つ箇所を増やすなど、さまざまな工夫をする必要があります」(安部医師)

 安部医師による治療で、橋詰さんのわき汗は何とか治まった。半年に一度、経過をみながら、夏場など汗をかきやすい時期が近づくとボトックス治療を受け、今では支障なく日常生活を送っている。

 顔面や手のひらなどほかの部位の多汗症治療も数多く経験する安部医師は、汗が気になる場合には、どのような汗のかき方かを確認することが大切だと話す。

「局所的な汗ではなく、全身に汗をかいたり、朝起きたときにすでに汗をかいていたりするような方は、甲状腺などの代謝性疾患や更年期障害などのほかの病気の可能性も考えて、まずは近所の皮膚科の医師に相談してみましょう」

週刊朝日  2014年7月4日号より抜粋