理化学研究所に研究不正と認定され、再調査を却下された小保方晴子ユニットリーダー(30)。理研の規定では、研究不正は原則として懲戒解雇か諭旨退職に相当。小保方氏の代理人を務める三木秀夫弁護士は法廷での全面対決を辞さない構えだが、実は、今から約1年前にも、雇用をめぐって理研と法廷で争った女性がいた。

 2012年8月から理研の筑波研究所(当時)・バイオリソースセンターに非正規雇用の事務職として勤めていた30代の女性Aさんである。

 Aさんはある研究室の事務職として勤務したのだが、12年9月頃から、同年代の同僚女性から「パワハラ」のような嫌がらせを受けるようになったという。Aさんが語る。

「悪口を言われたり、仕事の情報を共有してもらえないといった嫌がらせを受けるようになり、室長に相談したのですが、のらりくらりと答えるだけで取り合ってくれませんでした」

 たまりかねたAさんは理研本部のコンプライアンス室に相談。13年1月にはコンプライアンス担当者による関係者への聞き取り調査が行われたが、結局、嫌がらせの事実は認定されなかった。それからしばらくして、“異変”が起きた。

 2月下旬、Aさんは室長に呼び出され、契約期間が満了する3月末以後の雇用契約を更新しないこと、つまり「クビ」を宣言されたのだ。

「室長から『(室長と)コミュニケーションがとれていない。あなたの技量が足りないからだ』と説明されました。『コンプライアンス室に相談したからですよね』と聞くと、『それがコミュニケーション能力が足りないということだ』と言い返されました」

 なんと、パワハラを訴えた側のAさんが「クビ」になってしまったのだ。納得できないAさんはその後も理研側と話し合ったが、「クビ」の理由はいつの間にか「予算上の都合」にすり替わっていた。

「その頃、同じ部署の求人が出ていたので、ウソだと思いました。そもそも理研はお金にルーズで、一脚数万円はするような椅子を室長が『邪魔だから捨てようか』と話していて驚いたこともあります」(Aさん)

 理研からはその後、解雇通知書が送られてきた。Aさんは野依良治理事長宛てに内容証明を出して抗議し、さいたま地裁に不当解雇による労働裁判を申し立てた。

 裁判所に提出された資料によれば、理研側は<Aさんがコンプライアンス室に相談した嫌がらせに関することは契約を更新しないことの理由ではありません>(室長の陳述書から)などと反論。だが、審理の結果、13年8月19日、理研側がAさんに30万円を支払う審判が下された。巨大組織・理研が、弁護士もつけず個人で闘ったAさんに“敗北”したのである。

「理研は私をクビにすることで問題のもみ消しを図ったとしか思えません。理研は室長が人事など大きな権限を持っている半面、コンプライアンス担当の力は弱かった。私が勤めている間も、野放しになっているパワハラやいじめ、セクハラについて見聞きしました」

 上司が部下を切り捨てるのは、理研の体質なのか。理研に事実関係を問い合わせたが、期日までに回答を得られなかった。

(本誌・小泉耕平、作田裕史)

週刊朝日 2014年5月23日号より抜粋