安倍晋三政権がアベノミクスを打ち出し、なんとなく日本経済の景色が変わってきた。株価は底を打ち、円高も最悪期を抜け出した。問題は「最大の敵」デフレだ。日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は昨年4月4日、新たな金融政策「異次元の金融緩和」を発表した。金融市場から国債などを買い入れることで世の中に出回るお金の量を2倍に増やし、消費者物価指数の前年比2%上昇をめざすものだ。

 日銀の政策は、アベノミクスの「大胆な金融政策」「機動的な財政出動」「新たな成長戦略」という3本の矢のうち、第1の矢にあたる。

 効果はめざましかった。発表から2カ月後、昨年6月には全国の消費者物価指数(生鮮食品を除く)が1年2カ月ぶりにプラスに転じた。その後ほぼ一貫して上げ足を速め、今年2月には上昇率が前年比1.3%に達した。

 野村証券の尾畑秀一シニアエコノミストは、この上昇の要因を「円安」が7~8割、残りが消費増税に備えた「駆け込み需要」も含む「景気の押し上げ」だと分析する。

 為替は、日銀の新政策によって円安が加速度的に進んだ。昨年4月以降、ほとんどの期間で1年前と比べて20円前後の円安ドル高となった。

 円安は輸入品の値上がりに直結する。とくに原油や、原子力発電所の停止によって消費が増えた天然ガスといったエネルギーだ。電気料金も今年2月、前年比9.3%上がった。エネルギーを除いた指数に比べて、エネルギーを含めた指数の上昇率は2月、0.5%幅高い。

 物価上昇の二つ目の要因、景気については失業率を物差しにする。2月の完全失業率は3.6%と、6年7カ月ぶりとなる水準だ。東京大学大学院の渡辺努教授が「画期的」と評する改善となった。経済構造が原因で、「これ以上改善しない」とされる構造的失業率に肉薄している。これは、「株高で潤った富裕層がお金を使い出したからです」(クレディ・スイス証券の白川浩道部長)。

 たしかに、日銀が新政策を発表してから1カ月半ほどで日経平均株価は3割近くも上がった。

 これに「駆け込み需要」が加わった。消費増税前に自転車や家電などを買おうとする動きで、デフレ時代には値崩れが激しかったテレビの価格も2月は5.8%の上昇となった。

「高額商品にモデルチェンジしたことに加えて、売り手側が値下げせずに強気の勝負ができています」(野村証券の尾畑氏)

週刊朝日  2014年4月11日号