世界の認知症の患者数は今後、爆発的に増加し、2050年までに現在の約3倍に達する――。こんなセンセーショナルな内容が、認知症サミットに先駆け、国際アルツハイマー病協会から発表された。アルツハイマー病の原因物質は「β(ベータ)アミロイド」というタンパクだが、発症を予防する決め手はあるのか。

 先制医療を成功させ、認知症を発症させなくするカギは、なんといっても治療薬の開発だ。現在使われているアルツハイマー病の薬は、いずれも進行を遅らせることが目的で、根本的に進行を食い止めることはできない。これに対し、開発が進む新薬は、アルツハイマー病の“元を断つ”ものだ。具体的には、脳の神経細胞にβアミロイドが蓄積するのを防ぐ、「抗βアミロイドタンパク療法」の開発が盛んだ。βアミロイドが作られるのを防ぐ薬や、溜まるのを防ぐ薬、βアミロイド自体を除去する薬などがある。

 残念なことに、今のところいずれの臨床試験も成功にいたっていない。しかし、希望はある。

「新薬であるソラネズマブの試験は、認知症を発症した人の認知機能を改善するという目標を満たせませんでした。しかし、軽症のアルツハイマー病に限って改めて解析すると、わずかながらも認知機能低下のスピードを抑えていた可能性が浮上してきました。そこで、βアミロイドの蓄積が確認された、軽度認知障害(MCI)や早期の患者をターゲットにした臨床試験で再度挑戦、勝負をかけるようです」(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻・神経病理学分野教授の岩坪威医師)

 こうした先端研究が実を結び、予防や早期治療が実現するまでには、少し時間がかかるだろう。では、現時点でできる「予防」としては、なにが効果的なのだろうか。

 アルツハイマー病の予防に関する世界各国の大規模研究を分析した、筑波大学病院精神神経科教授の朝田隆医師によると、認知機能の低下に対し効果があると評価できるのは、「運動習慣」だけだという。朝田医師はこう語る。

「運動のなかでも、有酸素運動がとくに効果的です。サイクリング、やや速めに歩くウオーキング、なわとびなどを2週間に1回、30分以上することが目安になります。また、強制されてするのではなく、楽しんで行うレジャーアクティビティーがいいでしょう」

 運動習慣は、健康な人が加齢によって認知機能が落ちるのを防ぐだけでなく、すでにMCIを発症している人の認知機能低下を軽減させる効果もある。MCIの高齢者170人を対象にしたオーストラリアの研究では、6カ月間運動した人は、しなかった人と比較して、3年後に認知機能の改善がみられたという。

週刊朝日  2013年12月27日号