仕事で自分の意見を言う機会の多い作家の室井佑月氏。自分の意図しないところで、他人を苦しめる結果を招いたこともあったようだ。最近「なにが正しいことなのか?」とある人に聞いてみたという。

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 去年の衆議院選の際、BSの選挙番組で、新右翼団体一水会代表の木村三浩さんとご一緒した。たまたま隣の席で、CM中など話をする機会があった。

 木村さんは怖そうな肩書や見た目と違って(失礼)、スマートな男性だった。あたしとは考え方が違ったりするのだが、自分はなぜそう考えるのかを丁寧に説明してくれた。あたしが興味ありそうにしていたから、「じゃ、教えるね」って感じで。「君はそうなんだ、でも僕はこうなんだ」というノリだ。

 あたしは正直、驚いた。

 テレビなどで自分の意見をいう仕事がある。そういった現場で、違う意見をいうと、怒るオヤジ、睨むオヤジは当たり前だからだ。

 性差別をするわけではないが、女にそういう人は少ない。意見が違っていてもその現場が終われば、「じゃあね」という感じで別れる。オジサンだけだ。

 大昔のことであるが、番組が終わってからわざわざあたしの携帯に電話をかけてきて、いかに自分は正しいのかを一方的に怒鳴り散らしてきたオヤジもいたっけ。

 選挙の番組でご一緒してからしばらくし、木村さんと新宿のゴールデン街の飲み屋でばったり遭遇した。酔っぱらっていたこともあって、かなり不躾(ぶしつけ)な質問をした。「右翼ってなに?」みたいな。

 いや、酔っぱらっていたからじゃない。わかっていた、この人はこの程度のことで怒る人じゃないと。そういう安心感もあり、もっかの悩みである「自分の考える正義に関する不安」について質問した。

 たとえば、放射能汚染について。なんの罪もない子供たちのことを考えれば、「きちんと安全を確認すべきである」となる。が、そういった意見に、損害を受ける人もいる(権力者以外で)。きちんと安全を確認するにはお金がかかる。そう考える人は、これから先より今、生きていることに汲々としている。あたしの発言が、彼らを苦しめたりすることもあったみたいだ。

「なにが正しいことなのか」。

 あたしがそういうと、木村さんは、「どういった意見でも、大切なのはフェアであることだ、決まってる」と答えた。

 小泉元首相の脱原発発言が話題になっている。なぜか、あたしは木村さんのその言葉を思い出していた。

 小泉さんの行動を「無責任」だと政府は批判しているが、彼はなぜそう考えるのかを国民にきちんと説明している。何度もくり返し、わかりやすい言葉で。

 対する政府は、小泉さんのこれ以上の行動を抑えることにだけ熱心で、国民に正義の説明をしようとしない。「フェア=道徳心に則って」ってのに欠けているのか、全くないのか。あたしはそう感じた。

 フェアであれば、自分の考える正義をそのまま人に押しつけず、違う意見の人には訊かれればなぜ自分がそう考えるのか説明したくなるものじゃない?

週刊朝日 2013年12月6日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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