泉田裕彦新潟県知事(撮影/写真部・慎芝賢)
泉田裕彦新潟県知事(撮影/写真部・慎芝賢)

 東京電力柏崎刈羽原発の安全審査申請を「条件」付きで承認した泉田裕彦新潟県知事。しかし、原子力規制委員には大きな不満があると激白する。

――原子力規制委は、汚染水問題に手間取る東電の安全体制が信頼できないと、東電の広瀬直己社長との面談を終えるまで、適合審査を延期する構えです。規制委が作って7月に施行された原発の新基準については、どう思いますか。

 欧米ではメルトダウンが起きることを前提に対策を立てています。例えばヨーロッパでは、最新の原発にはコアキャッチャーという装置が付いていて、メルトダウン事故が起きても炉心をキャッチして冷却設備に流し込む仕組みを持っている。アメリカでは01年の同時多発テロの後、“B5b”というテロ対策を作った。どんなテロがあっても数時間で駆けつけて原子炉を冷却し、放射能の飛散を防ぐのです。その点、日本の基準は不備です。

――日本の新基準には、そういう項目はありません。

 今の基準はバッテリーが二重になっていて隣り合っていないかとか、機器や設備の性能に関するものばかり。メルトダウン事故がいかに起きないようにするかという、「第二の安全神話」を作ってしまっている。確率的に事故は起きるものなのに、いざというときに誰が危険な現場に突入するのかすら決められていない。福島のように、事故が起きてからその場でまた「決死隊」を募るんでしょうか。その辺りの法整備も、まったくできていません。

――原子力規制委の田中俊一委員長に面会を申し込んでいるのに、会ってくれないそうですね。知事を「かなり個性的な発言をしている」と批判しています。

 規制委に国民の命と安全と財産を本気で守るつもりがあるのか疑問です。守っているのは、電力会社の財産ではないか。規制委には地方自治に明るい委員が一人もおらず、断層のチームと原発設備のチームしかない。新潟県は中越沖地震のときに原発事故との複合災害を身をもって体験しています。渋滞で車が動かなくなって、緊急自動車もなかなか原発にたどり着けない。そういう話を、彼らは聞こうともしないのです。

――田中委員長は、原発再稼働と住民の防災計画は「直結しない」と発言していました。

 政府の中での役割として、原子力利用の安全確保に関することはすべて規制委の管轄なんです。例えば、甲状腺の被曝を防ぐヨウ素剤の服用について薬事法の改正が必要な場合などでも、規制委は他省庁への勧告権を持っている。原発の性能基準だけ審査して後はやりませんと言うのなら、責任回避以外の何ものでもありません。

――規制委は、自らの責任から逃げていると。

 例えば福島第一原発事故のように原子炉への海水注入が必要となったとき、誰が責任を持って決断するのか。規制委は「事業者の責任だ」と言うでしょうが、海水を注入して5千億円の原子炉をパーにする決断は、サラリーマンの現場所長にできるか疑問です。経営者も簡単にできないでしょう。万が一のときは安全のために国が補償します、というような制度を作るべきではないか。だから、福島の検証と総括が必要なんです。

週刊朝日 2013年11月8日号