お茶の間の人気芸人「松本ハウス」のハウス加賀谷さんの著書『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)が話題を呼んでいる。統合失調症を患った加賀谷さんの入院、09年のコンビ復活の経緯をまとめた一冊だ。そこに描かれているのは、精神疾患の芸人の告白であり、コンビの復活劇であり、そして2人の男の友情だった。加賀谷さんの病気を知らなかった相方の松本キックさんは、初めて知った当時をこう振り返る。

キック:加賀谷の薬の服用がたまたまわかったときも、「わあ大変やどうしよう」とか「なんか気を使わないといけないのか」とか、僕は一切なかったですね。加賀谷の病気のことを知ったときから、理解しようという気はなくて、そのまま受け入れているだけです。

――キックさんの、そのさりげないやさしさも、この本の魅力です。

加賀谷:(うなずいて)すごいと思うでしょ。今もずっとスタンス変わらないんですよ。

キック:(うなずいて)今も変わらないですね。

加賀谷:(うれしそうに)でもね僕、気づいたんですよ。キックさん、天然なんです。

キック:おいっ、お前が言うなお前が(笑)。

加賀谷:僕は病気がオープンになって、すごく肩の荷が下りて楽になりました。ただ、これは個人によって周りの環境も違うので、他の人もオープンにすればいいとは思いません。

 
キック:絶頂期は月給200万くらい。一度学祭のシーズンに三十何校いって学祭キングと呼ばれていましたね。メチャクチャ忙しかったんです。

加賀谷:そのうちに病気が悪化してしまいました。原因は僕が勝手に薬の服用をやめたりして、服薬コンプライアンスを守っていなかったからです。前に精神料の先生と話したときに「悪化する典型的な例だね」と言われました。母親からずっと入院を勧められても、そうするとお笑いの芸人でなくなることが怖かった。ハウス加賀谷でない自分は一回唾液(だえき)に浸った麩(ふ)菓子のようなもので、何者でもなくなってしまう。それで入院が遅れてしまいました。

キック:たとえが汚いな、唾液じゃなくて水でいいだろう(笑)。病気について最低限の勉強はしましたけれど、どう手を差し伸べようかとかないです。どちらかというと手を差し伸べて、つかまれたらポイッと放り出す感じで(笑)。自立が大事なんですよ。過剰に手を出してしまうのでなく、本人の自立心を育ててやらないと。

加賀谷:萎(な)えさせてしまいますからね。

キック:僕は加賀谷とは共存性を保ちたいと思っています。そこに依存があってはいけないと思うんですよ。わかりやすい言葉でいえば「お互い様」でいい。

加賀谷:お恥ずかしい話、何回か自殺未遂しているんですけれど、キックさんから「簡単なことはするな」と手書きのファクスをもらいました。それからは絶対にそんなことはしなくなりました。

キック:(自殺未遂を繰り返していることは知らなかったが)感覚なんですけれど、ずっとそこは引っかかっていたんですね。あ、まずいと思ってパッと書いて送ったんです。

週刊朝日 2013年10月25日号