2020年の東京五輪開催が決定し、各メディアが大きく取り上げている。作家の室井佑月氏は、安倍晋三首相が招致の最終プレゼンテーションで行った宣言に、期待を寄せている。

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2020年、夏季五輪は東京に決まった。安倍首相がプレゼンテーションの場で「福島についてお案じの向きには、私から保証をいたします。状況はコントロールされています。東京にはいかなるダメージもこれまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません」と発言した。

 事故後の福島第一原発、もうしっかり政府でコントロールされてるんだ。だったら、オリンピック委員じゃなく、まず国民に知らせてくれというのだ。いつから、どのように、コントロールしているの?

毎日、700トンの汚染水が出て大変だ、っていうのは参議院選挙後すぐのニュースだったよね。では、それからオリンピック招致へ首相がいく間に、コントロールできるようになったのか。

 そうそう、オリンピック委員から、「なぜ東京が安全と言えるのか。技術的な面も含めて説明して欲しい」と質問が出た。すると安倍首相は、「原発から漏れ出した汚染水の影響は港湾内にとどまって完全にブロックされている。(中略)日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しい基準だ。日本のどの地域でもこの基準の100分の1であり、健康問題については、これまでも、今も、将来もまったく問題ないことを約束する」と答えた。

 よっしゃ、いったな。東京だけじゃなく、日本全国の安全を宣言したな。しかも国際的な場で。

 べつに安倍さんがそう宣言したから、この国が安全になるなんて思っていない。第一、今の時点では安倍さんの発言は嘘だもん。あたしは覚えてるよ。魚から放射性物質が検出されたニュースを(海だけじゃなく川や湖の淡水魚にも)。

 国際的な場での首相の発言を、もうなんとしても真実に変えるしかない! そう考え、国が本気で動いてくれればと思う(今まではオリンピック招致活動のほうが優先順位上みたいな感じだったけど)。

 嘘を事実に変える、それは事故を起こした福島第一原発をきちんとコントロールすることであり、健康被害を東京だけじゃなく全地域から出さないことであり、汚染水を出さないことだ。そうなるといい。ほんとうに。

 ただし、危惧していることが一つ。安倍さんの発言を事実にするため、国が情報を規制したり、隠蔽したりすることだ。

 まあ、いくら事実を隠蔽しようと思っても、嘘はいつかバレる。実際、汚染水の問題にしても、ずっとは隠しきれなかった。でも、福島の子どもたちの異常な甲状腺がんの発生などを考えると、そんな悠長なことはいっていられないのだ。

 東京オリンピックの件で国際的な目が、この国に集中する。他所の国からこの国が、「嘘つき」なんて非難やあざけりを受けませんように。

週刊朝日  2013年9月27日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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