全国の高校の国公立・私立大学医学部の合格者について週刊朝日が調査したところ、最近は、医学部の受験者が増えている傾向にあることがわかった。その背景には、景気が関係しているようだ。

 全国的にみても、医学部志願者数はここ15年で1.5倍に増えている。2000年代に入ってからは右肩上がりだ。

 医学部志向の高まりは、昨今の経済状況とも無関係ではない。東大寺学園の進路指導部長の秋山誠司教諭は、戸惑いつつ、こう吐露する。

「特にすすめているわけではないのですが、わが校でも医学部志望の生徒が多いです。不景気が続くなか、関西に本社のあった三洋電機や、シャープの業績は悪化しました。理系の就職先として大企業の研究室は厳しいと感じやすい。どうしても手堅い職業である医師をすすめる保護者も多いように思います」

 この世相のなか、生徒たちの間で、勉強ができるから“とりあえず”医学部を受ける、という風潮があるのは否めない。

「僕は医者になりたいと思って東大理IIIを目指しました。でも合格した同級生の中にはそうじゃない子もいて、合格体験記を書いたときに『いいなあ、お前は、理IIIに行く理由があって。俺は今から考えなきゃ』と言われました」(現役で理IIIに合格した学生)

 こうした傾向に苦言を呈すのが、『灘校 なぜ「日本一」であり続けるのか』(光文社新書) の著作があり、自身も灘卒の同志社大学特別客員教授の橘木俊詔(たちばなき・としあき)氏だ。

「たしかに医師は、人の命を救う重要な仕事で、高収入で安定したいい仕事ですが、そこに集中するのはさびしいですね。医師のほかにも重要でやりがいのある仕事はたくさんある。もっと自分の適性や好みも考え、いろんな業界で活躍してほしいですね」

週刊朝日 2013年4月26日号