日本の経済面にとって、TPP(環太平洋経済連携協定)は一長一短あるとされる。そのデメリットの一例として農業への打撃が懸念されているが、投資助言会社「フジマキ・ジャパン」代表の藤巻健史氏は、TPPよりも大きな問題があると指摘です。

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 安倍晋三首相が、「農業支援策」を検討し始めたとのニュースが最近流れてきた。政府・与党は「TPP参加ですべての関税が撤廃された場合、国内総生産(GDP)が3兆円超増える半面、安い農産品の輸入で農林水産業の生産額は最大3.4兆円落ち込む」との試算を近く公表するとのことだ(2月26日付・日本経済新聞朝刊1面)。

 えっ、ちょっと待ってよ。外国産農産物が高いか安いかの最大要因は為替であり、関税ではないはずだ。関税をなくしても円が安くなれば、「チャラ以上」ではないか?

 安倍さんが首相になるとわかってから、1ドル=80円から九十数円と15%程度も円安が進んだ。これだけで15%の関税撤廃と同じ効果だ。1ドル=80円で外国産製品に15%の関税をかけて92円にするのと、関税を撤廃しても為替が1ドル=92円となれば外国産農産物の国内価格は同じだ。

 先日、沖縄に旅行したときにサトウキビ畑が1980年代と比べて激減した印象を持ったとこの欄に書いた。1ドル=240円から80円と、円が3倍にも強くなったからだ。外国産砂糖が3分の1の値段で買えるようになった。農業問題とは為替問題なのだ。製造業同様、円高では日本の農業は外国の農産物に太刀打ちできない。

 昔からの私の主張のように、為替は簡単に誘導できる。安倍首相が、いまのところ何もしていないのに15%程度も円安になったのが、その証拠だ。だから、さっさと円安にして、さっさとTPPに参加すればよい。

週刊朝日 2013年3月15日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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