止まっていた景気回復の歯車が一部で回り始めた。そんな気配が、中小企業の現場からも感じられるようになってきているという。「中小企業と信用金庫は運命共同体」と語る瀧野川信用金庫理事長の黒田道雄氏に、中小企業の今について話を聞いた。

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 当金庫の本店は東京都北区にあり、主要なお取引先は地域の一般個人の皆様と中小企業の方々で、いわゆる「東京の下町」です。町工場を営む製造業を始め小売・卸売業やサービス業、建設・不動産業など幅広い業種の方々とお取引いただいております。お取引先の中からは「土日出勤してフル稼働しても納期に間に合わない」という、うれしい悲鳴も聞こえるようになってまいりました。というのも、まだ一部ではありますが、製造業で「国内回帰」の動きが出てきているからです。

 昨年、中国で反日デモが多発し中国にある工場の生産ラインが止まりました。このことを契機として、大手企業が生産の大半を中国に依存するリスクに危機感を強めた結果、多少コストがかかっても、安定した生産・供給ができる国内に生産委託先を戻す動きが出始めたのです。

 身近な日本経済をみても、昨年は東日本大震災の被災者の方々に不十分ながらも補償金や保険金が支払われたことで、被災地関連のお金が回り始めました。当金庫のお取引先である住宅関係企業の社長さんは、「大工さんが被災地に大量に入り、人手が不足して、日当も上がっている」と話されていました。

 このように明るい動きも見られますが、全体的には景気はまだまだ悪いというのが率直な印象です。私は「マダラ景気」と呼んでいます。業況が改善しているのは一握りの企業であり、多くの企業は依然として厳しい経営環境が続いております。

週刊朝日 2013年1月25日号