安倍政権の金融政策のうち、昨年の総選挙でも公約として掲げた〈明確な「物価目標(2%)」を設定〉が注目を集めている。「デフレ不況」の負の連鎖を逆回転させ、商品やサービスの値段が将来上がる、つまり インフレになると思えば、その前に個人が消費を増やしたり、企業も設備を入れ替えたりするようになる。 これをめざして、目標を定めて人為的にインフレ状態をつくりだそうとするのが、物価目標(インフレターゲット)だ。

 今回、物価上昇の「引き金」は、輸入に頼るエネルギーや食料品の価格が円安によって高くなることだと見られる。「懐疑派」の意見は、こうした生活必需品が値上がりすることで、「生活が苦しくなった国民から批判が出ます。押し切れるのか」(クレディ・スイス証券の白川浩道・経済調査部長)。

 その代わりに給料が上がればいいが、そう簡単にもいかないようだ。投資銀行家のぐっちーさん(山口正洋氏)が疑問を投げかける。「2002~08年は、円高でも輸出が好調でした。しかし、一般労働者の給与所得は下がった。この戦後最長の景気拡大期に下がった給料が、なぜ今回は上がると言えるのでしょうか」。

 08年の平均月給は02年と比べて3.5%、金額にして1万2180円下がった。今後についても、ある大企業経営者の見通しは暗い。「外国人株主が3分の1もいるなかでは、株価を上げなければ経営できません。法人税やエネルギー価格が高い『六重苦』もあるので、人件費を増やして利益を削るのはきつい……」。

週刊朝日 2013年1月25日号