政党が乱立し、争点も消費増税にTPP交渉参加、尖閣問題に原発政策と多種多様な衆院選。民主党や自民党などでは「経済成長率」に関する政策を掲げているが、経済成長率を競うのは非現実的だとエコノミストの浜矩子氏は指摘する。

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 いまの日本に足りないのは、成長ではありません。豊かさの一方にある、保育施設の待機リストの長さや介護職員の少なさなど、政治の手が及んでいない領域とのミスマッチです。

 政治がまずやらなければならないのは、グローバル化のなかで、企業が安売り競争に巻き込まれた結果、非正規の雇用者が困窮し、経済全体の活力を低下させているという現実を直視すること。そして、貧困者に手を差し伸べる経済政策を打ち立てることです。

 こうした弱者対策は、共産党や社民党が以前から主張してきました。1億総中流だった時代には、弱者救済のメッセージは有権者になかなか届きませんでしたが、豊かな経済社会の中に貧困問題が出現しているいまの時代においては、両党の政策は時代的な要請とマッチしています。

 ただし、両党は残念なことに消費増税に反対し、相変わらず大企業や富裕層への課税強化などに財源を見いだそうとしています。少子化のなか、国民の所得に焦点を当てた税制では徴税力は落ちます。

 グローバル時代の財政運営は、消費税など間接税中心の税制にならざるをえません。日本国民からだけでなく、いま、この瞬間に国内で消費活動をしている海外の人すべてからも税金を取る仕組みが必要なのです。

 重要なのは「成長」戦略を競い合うことではなく、「成熟」戦略を追求することです。積み上がった豊かな富をいかに効率的に、しかも効果が最大になるように国民が分かち合えるか。つまり、豊かさを分配する仕組みづくりです。

週刊朝日 2012年12月21日号