日本国内では次々に姿を消しつつある寝台列車。そんな日本の寝台列車のひとつ、ブルートレインが「マラヤンタイガー」と名を変えてマレーシアを走っている――そんな話を聞き、現地へ飛んだ。

 首都クアラルンプールでは、ちょうど「カラーズオブマレーシア」という大規模な祭りの真っ最中だった(写真)。大通りを通行止めにして、山車と踊りのパレードが真夜中まで続いていた。パレード参加者は7000人、観ている人は10万人だという。

 マレー鉄道の路線は、マレー半島南端のジョホールバル中央駅から北に延びており、途中でクアラルンプールを通る西海岸線と、マラヤンタイガーが走る東海岸線に分かれる。

 大騒ぎの都を後にして、ジョホールバルへ向かった。

 15年前、サッカーの「ジョホールバルの歓喜」で日本中を沸かせた地は、今、「イスカンダル開発計画」で熱く沸き立っていた。ジョホールバルを中心とした2千平方キロ以上の広大な土地を開発して、中東ドバイのような国際都市を目指すという計画である。

 夜10時過ぎ、ジョホールバル中央駅のホームにマラヤンタイガーがゆっくりと入ってきた。見覚えのある青い客車は全部で7両。両端だけオレンジに塗り替えられてはいるが、「大阪」や「天王寺」となっている行き先表示や、車内の設備は、ほぼそのまま使われている。鉄道マニアでなくとも、自然と気持ちが盛り上がる。

 ジョホールバルの次の駅クンパスバルから乗ってきたのは、1歳の娘を連れたロシャシマさん。妊娠7カ月目の大きくなってきたおなかをさすりながら言う。

「実家に帰るところなの。同じ値段のハイウエーバスは座れるだけでトイレもない。この列車は、楽だし清潔でいいわね」

※週刊朝日 2012年7月20日号