"年金ドロボウ"の追及が、一向に進まない。

 高い運用成績をうたっていたAIJ投資顧問が、実際は集めた約2千億円の大半を消失させていたことが発覚したのは2月下旬のこと。4月には同社の浅川和彦社長(59)が国会の証人喚問を受けたものの、いまだに関係者が逮捕されることもなく、事態は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。

 調査を進める証券取引等監視委員会周辺が明かす。

「当初は詐欺容疑を見据えて着手したが、なにしろ、事件の鍵を握るはずの高橋(成子・AIJ取締役)が出てこない。現場はどうにもならず、立ち往生しているようです」

 高橋取締役は浅川社長の右腕で"AIJの女帝"ともいわれ、月350万円もの報酬を受け取っていた。担当は総務だが、財務についても彼女が熟知する立場だったという。

 高橋取締役は、4月に国会で行われた証人喚問も病気を理由に欠席。うつ病治療で知る人ぞ知る神奈川県内の病院の閉鎖病棟に入院しているという。診断書では1カ月ほどで退院することになっていたが、いまだ「面会謝絶」を理由に監視委の調べにも応じていない状況なのだ。

「彼女が出てきてくれないとなあ。このままでは期待外れの結末になりそう」

 とは、前出の監視委関係者。刑法の詐欺罪で立件できた場合は懲役10年以下だが、金融商品取引法違反(契約の偽計)のみでは懲役3年以下と、軽い罪にしか問えないのである。

 巨額の年金資金が失われたというのに、当局は何をやっているのか。ある投資コンサルタント幹部が言う。

「そりゃ本気で調査や捜査なんてできませんよ。徹底解明なんて最初からするつもりはないでしょう。AIJに運用を依頼していた厚生年金基金には、厚生労働省を中心に700人以上もの役人が天下りしている。事件化して彼らの責任まで問われることになったら、霞が関は大混乱ですよ」

※週刊朝日 2012年6月8日号