AIJ投資顧問が企業年金から運用を任された資産の大半を消失させた問題。その責任取り方について、ジャーナリストの辛坊治郎氏がは「AIJ社長の刑罰はもっと重くていいかも」と話す。
*  *  *
 アメリカでは時々、「ありえない長さ」の有期刑が言い渡されることがある。
 記憶に新しいのは2008年に詐欺の罪で捕まったバーナード・マドフのケースだ。この男は、30年の長きにわたって、10%を超える利回りを謳い文句に世界中から兆円単位の投資マネーを集めていた。しかし、この男が設立した投資顧問会社はある日、数十億ドルの払い戻しができずに倒産してしまう。
 蓋を開けてみれば、10%の利回りどころか、実際には運用すらせず、顧客の払い戻し要求には他の客の投資資金を充てる自転車操業を続けていたことが明らかになった。言い渡された判決は実に、禁錮150年。現在服役中だが、この男が生きている間に塀の外の空気を吸うことはないだろう。
 この事件を知って多くの皆さんは、AIJ問題と瓜二つであることに気付くはずだ。金額は1桁少ないとはいうものの、一般の投資資金を集めていたマドフのケースよりも、年金という公的資金を失っていた点で、より罪は重い。
 集めた金に巨額の損失が出ているにもかかわらず、積極的に新規勧誘を行い、その金で払い戻しをする一方、月額600万(年収ではない!)の報酬を受け取っていたと悪びれずに語るこの男には、その罪にふさわしい罰が与えられるべきだ。
 もしこの事件が中国で起きたら責任者はどう処罰されるか? 中国の刑法では、詐欺の被害金額が大きく、しかも国家・人民に重大な損失を与えたものに対する刑罰は最高で「死刑」とされている。
 日本でAIJの社長にはどんな罰が待っているのか? AIJが強制調査された時の根拠法は金融商品取引法だった。この法律の38条では投資顧問会社が嘘をついて契約を結ぶことを厳罰付きで禁止しているのだが、その刑罰はわずかに「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」に過ぎない。
 1千億円もの他人の金を「溶かした」男が、最高3年の懲役刑しか定めていない法律で起訴されて執行猶予判決を受け、300万円の罰金を支払って、隠し財産で安逸な老後を送る。
 万が一にもこんなことがまかり通るなら、社会の秩序そのものが破壊されるだろう。

※週刊朝日

 2012年4月27日号