投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める藤巻健史氏。"伝説のトレーダー"の藤巻氏が消費増税などの陰に隠れている郵政民営化の動きを注目している。

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 3月30日、民主党など3党が郵政民営化法改正案を衆院に共同提出した。郵政民営化を逆戻りさせるこの改正案は大いに問題ありだ。消費増税が必要となり、財政破綻の危機が叫ばれるようになり、円高で製造業が崩壊の危機にあるのも、私に言わせれば、郵政の金融部門が長らく国営だったせいである。

 郵政の民営化は民業圧迫の観点から、はたまた郵便・金融のサービス向上の観点から賛否両論があるのは承知している。しかし、それらの議論に目をつぶってでも、金融部門の早急なる完全民営化が日本にとって不可欠なのだ。日本の浮沈にかかわる根幹問題だ。

 そもそも小泉政権下で郵政民営化を進めたのは、郵便貯金で集めたお金の大半が、国債購入に充てられていたことを是正するためで、資本主義国家への方向転換のはずだった。

 通常、政治家がバラマキをすると、長期金利が上昇するという形で、金融市場が政治家をいさめてくれる。「長期金利が上昇すると景気が悪化しますよ。それでもいいのですか?」と。ところが日本では長期金利が上昇しなかった。ゆうちょ銀行が、借金したければしたいだけのお金をどんなに低利でも国に貸してくれたからだ。国債を購入するという形で。ゆうちょ銀行は、集めた預金は民間にも海外にも向けず、一時は88%、最近でも80%を日本国債の購入に向けている。

 おかげで、政治家はバラマキや過度な財政出動を心置きなく行い、ここまで累積赤字を大きくしてしまった。その結果が、消費増税問題であり、財政破綻問題なのだ。

 また、ゆうちょ銀行の存在は「円高」の大きな理由の一つでもある。国営だからこそ厳しい投資規制があり、高利回りの海外資産ではなく、ただひたすらに1%かそこらの低利回りの日本国債に投資し続けてきたからだ。円高の結果、日本の製造業は壊滅状態になり、空洞化で日本人は職がなくなってしまったのだ。

 それでも、郵政は国営のままがいいですか?

※週刊朝日 2012年4月20日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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