テレビでニュースキャスターなどを務める辛坊治郎氏は、ここのところ報じられている投資顧問会社AIJの問題を分析しているうちに、「恐ろしいことに気付いてしまった」という。そしてそれは「公的年金に加入しているすべての人にとって戦慄すべき事実」だというのだ。辛坊氏が語る。

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 おそらくAIJのニュースを聞いて多くの人がまず、自分に直接の関係があるかを確かめたはずだ。そもそも日本のサラリーマンのうち、公的年金に上乗せされている企業年金の恩恵に浴しているのは3分の1に過ぎないし、2010年度末で全国に存在する595の厚生年金基金のうち、このとんでもない投資顧問会社に資金を預けていたのは74だから、一般的な受け止め方は「ああ、ウチの話じゃなくてよかった」というところだろう。

 ところが、このニュースを子細に分析すると、日本の公的年金に加入しているすべての人にとって戦慄すべき事実が浮かび上がるのだ。

 この騒動が単なる「企業」の問題で済まないのは、ここで運用されている年金基金の中に、厚生年金の代行運用部分が含まれていることだ。

 これには厚生労働省からの天下りを確保するという裏の意図のほかに、企業が運用規模を大きくしてスケールメリットを享受できるという表向きの意図、さらに公的年金の予定利率以上の運用益は企業が独自に加入者に支払えるという動機付けのために、厚生労働省が運用すべき資金を企業が肩代わりして運用する制度が厚生年金基金には組み込まれている。

 早い話、企業の基金残高には、厚生年金分と企業年金分があるということだ。2010年度末に存在する595の厚生年金基金のうち、213の残高は企業年金どころか、厚生年金分まで損失が出ている。つまりこれらの基金では、企業年金分の原資はすでに完全に枯渇しているのだ。

 しかし、厚生年金基金の解散には過去の積み立て不足額の補填を企業が求められる。それができない企業は、既に年金受給が始まっている世代に対して5.5%などという、とてつもない想定運用利回りの下で支給を続けている。支払い原資は勿論、現役世代の掛け金だ。この構図に未来はない。

 現在政府は、厚生年金全体で、この損失部分を補填する方針だという。これは企業の年金運用の失敗が、全厚生年金加入者に降りかかることを意味する。

※週刊朝日 2012年4月6日号