3歳でバレエと出会って以来、61年もの間、バレリーナとして踊り続ける森下洋子さん。小学6年生で単身上京し、両親のもとから巣立ったが、その裏側には親からの多大な信頼があったという。森下さんが語る。

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 広島では、葉室潔先生、洲和みち子先生という大変素晴らしい先生方の厳しくも愛情のこもったレッスンを受けていましたが、レッスンの日数が少なかった。もっと稽古したいという私の強い思いを理解してくれた両親は、2年生から、学校の長い休みを利用して東京のバレエ学校にレッスンを受けに行くことを許してくれたのです。当時は新幹線もない時代。広島から東京まで寝台特急で12時間。東京から「ヨーコ、ブジツイタ」という電報があるまで、母は寝ずに待つ。それを5年生が終わるまで続けてくれました。

 両親は心配で、寂しかったでしょうが、勇気をもって突き放してくれたことにとても感謝しています。私はとにかくバレエが毎日できる喜びで頭がいっぱい、嬉しくて仕方なかった。寂しいと思ったことは一度もない。変わった子だったのね(笑)。母は周囲に、「あの子はバレエにあげちゃったんだから」って話していたようです。

※週刊朝日 2012年3月30日号