落語家になって45年がたつ桂三枝。銀行員だった父が生後1年足らずで病死、母ひとり子ひとりの幼少期を送った。

 そんな桂三枝さんは、苦労続きの母に楽をさせたいという思いから、就職に有利な商業高校に進学。しかし、そこでお笑いの世界に出会い、関西大学に進んだものの、卒業をしないまま、ツテを頼って桂小文枝師匠に弟子入り志願。「親も賛成なら」という条件付きで許可を得たが、この条件が難題だったそうだ。

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 息子が堅実な勤め人になることを願っていた母親に打ち明けられず、師匠と母を直接会わせることにしたんです。それも「就職が内定した住宅会社の人事課長が、親に会いたい言うてる」と苦しまぎれの口実(笑)。

 いまも覚えていますが、師匠が出演していたなんば花月前の喫茶店。時間に遅れた師匠が急いで駆けつけてくれました。着物姿の人事課長!(笑)。オフクロは仰天してましたが、事情がわかると、師匠に頭を下げ、「よろしゅうお願いします」。けど、家に帰っても一言も口をきいてくれません。翌日僕は、師匠宅に住み込む内弟子になりました。

週刊朝日 2012年2月17日号