広告会社のDACグループが遂行している「セブンサミッツプロジェクト」。最後の最高峰・エベレストへ挑むためには、日頃どんなトレーニングをしているのでしょうか。そして、エベレスト登頂の最大の難敵「高度」をどう攻略するのか──アタックするメンバーお2人のインタビュー第2弾をお送りします。

北八ヶ岳にて、右が上山さん。普段から国内の山でトレーニングしていますが、山登りはもはや人生の一部かもしれません
北八ヶ岳にて、右が上山さん。普段から国内の山でトレーニングしていますが、山登りはもはや人生の一部かもしれません

左:前山 敏行 (まえやま・としゆき) 59歳
株式会社DACホールディングス 常務取締役
・2014年8月、ヨーロッパ大陸最高峰エルブルス(5,642m)登頂
・2017年4月、世界最高峰エベレスト ノースコル(7,020m)到達
右:上山 弘平 (かみやま・こうへい) 36歳
株式会社デイリースポーツ案内広告社 部長代理
・2013年2月、南米大陸最高峰アコンカグア(6,962m)登頂
・2017年4月、世界最高峰エベレスト ノースコル(7,020m)到達

ひたすら山に登る、それがトレーニング

──エベレスト登頂に向けて、普段からどんなトレーニングをなさっているんですか。
上山:私はできるだけ山に行くようにしています。金曜日までみっちり仕事をして、その後ですね。持久力や心肺機能の強化を意識してランニングもやってます。
──山はどちら方面が多いんですか。
上山:主に東京から行きやすいところですね。剱岳や立山にも足を伸ばしてます。百名山も回っていて、今は30峰くらいですか。エベレストに備えるという意味で、秋から冬にかけては会社でプログラムされたトレーニングで雪山へ。春から夏場にかけては個人で登っていますが、単独行が多いですね。
前山:トレーニングは高尾山かな、ビールが飲めるし(笑)。それはともかく、上山ほどではないけれどやっぱり山登りがトレーニングですね。槍ヶ岳に行ったときはガイドさんにしごかれながら強風の中、登頂しました。山頂から下界が見えたときすごい景色だなと、一番記憶に残ってます。そういえば最初に行った山が冬の金峰山で、新品のアイゼンの袋をその場で破いて取り出したら、えらく怒られたんです。せめてうちで1回は履いてこいと(笑)。
上山:あとは、高山病に備えて低酸素トレーニングですね。人工的に空気の薄い高山環境を作り出す低酸素ルームに入ります。部屋の中で歩いたり呼吸法を学んだり。眠くなってきたらこれは高度障害だ、と体験的にわかるようになります。でもきちんと身体を慣らすには、現地で何週間も過ごさなければならないんです。

槍ヶ岳山頂の前山さん。登頂したとき、それまでの強風がピタリと止みました
槍ヶ岳山頂の前山さん。登頂したとき、それまでの強風がピタリと止みました

高度に慣れることが成功への基本

──高地順応は、やはり大変なんですか。
上山:時間をかけてゆっくり慣らしていきます。エベレストではベースキャンプが標高5,300メートルくらい。そこから天候などによって変動はありますが、最低1カ月かけて登頂する予定です。そのほとんどが高地順応で。
前山:まずはラサ空港が3,800メートルだから、その町で慣らして次のステップへ移ります。ゆっくりと慣らしていくんですが、7,000メートルになると普通にできることができなくなります。頭が働かなくなるというか。
上山:昨年ノースコルまで行ったとき、懸垂降下するところで動けなくなっちゃって。思ったよりも息を止めていたみたいで、酸素が足りなくなって悶えました。日本の山ではそんなことないんです。
前山:エベレストで履く靴は二重になっている独特の仕組みで、履くだけで15分や20分かかるんです。それだけで頭が痛くなっちゃう。息を止めて集中してるから。
──高山病には個人差があると聞いたことがあります。
上山:前山は比較的強いと思いますね。私ともう一人のメンバーの伊藤は、前山より若くて体力はあるんですが高所には弱くて。
前山:伊藤は初めてのプロジェクト参画ということもあって、靴を履くのにも苦労してたな。まあ去年何ともなかったから次もいいとは限りません。そのときのストレスなんかがミックスされて変わってくるし。人によっては3,000から4,000メートルが苦手で7,000以上になると元気になるという。科学的にはよくわかりませんけどね。
──高度と言えば、高所恐怖症ではないんですね。
上山:いや、実はあまり得意ではないんですよ。
前山:ノースコルのアタックの最後は急なところを上がっていきますね。そのくらいかな。でも高い岩場は怖いですよ。アイゼンがちょこっとかかっているだけという感覚は、信じられないですね。
上山:足がすくむというのは毎回経験してます。落ちたら死ぬ、と思いますよ。
前山:でもそういう所が苦手でも挑戦しなければならない。人生や仕事に似ているなと思うんです。

社内に貼られている、エベレストとノースコル挑戦を告げるポスター
社内に貼られている、エベレストとノースコル挑戦を告げるポスター

「手を伸ばせばエベレスト」だったノースコル

──ノースコルへは最終目標のエベレスト登頂に備えて、という意味合いで登ったんでしょうか。
上山:7,000メートル以上の体感や高所でのイメージ的な慣らしですね。シミュレーションという感じです。そこまでは無酸素で登らないと。
前山:中国側から登るので、エベレストへのルートの途中にあるのがノースコルなんです。エベレストへは6,500メートルを経験していないと入山許可が出ませんし、とても参考になりました。
──ベースキャンプはどんな様子なんですか。
上山:ベースキャンプまでは車で入れるんで、しっかりとしたテントで普通に食事が摂れます。料理人が現地の食材で作ってくれるんです。
前山:でもみんなお腹壊しましたね。水が合わないんですよ、日本人には。
上山:ベースキャンプから上に行って、アドバンストベースキャンプ。その上がノースコルです。そこから先はキャンプ2、キャンプ3があって、登頂ということになります。
前山:あのときは天気がよくて、3人とも調子がよかったからそのままエベレストへ行きたい、という気分になりました。目と鼻の先、手を伸ばせば届きそうなところに山頂が見えるんですよ。本来はそこから3日かけて登るんです。
上山:そこからが大変なんですよね。
──山頂まではガイドさんが同行するんですね。
前山:倉岡裕之さんという、エベレストに8回登頂している人です。我々のチームは倉岡さんを入れて4人が山頂に立つ予定です。
上山:ノースコルのときも、ベースキャンプからちょっと上がったところの岩場でロープなど高所登山でしか使わない装備の練習をさせてもらって。日本の山でも扱い方に慣れておきます。
前山:エベレスト登頂は危険じゃないかってよく言われるんですが、危険なときには行かない。全幅の信頼を寄せているガイドさんと共に登るので、その点では安心感があります。やはり登頂の経験値がモノを言ってると思いますね。

★「会社員が挑むエベレスト ③」に続きます。

ノースコルからは、エベレスト山頂に手が届きそうに見えました
ノースコルからは、エベレスト山頂に手が届きそうに見えました