咲いている花がかわいいと、つい「食べてみたいなあ」と思いませんか? 「エディブルフラワー」とは、「edible(食べられる)」花のこと。花を食べるなんて虫か妖精の食事かと思いますが、私たち日本人は昔から食用菊や桜・シソなど、季節の花をさりげなくお皿にのせて楽しんできました。食卓を華やかにする、食用花の楽しみは・・・

禁断の世界へようこそ
禁断の世界へようこそ

ブーケの花は食べちゃいけないみたいです

バラ・カーネーション・パンジー・ラン・ビオラ・・・『エディブルフラワー』は特別な品種ではなく、一般に流通している季節の花々です。夏休みにおなじみのアサガオ・サルビア・ミニヒマワリなどもあり、写真で見ればブーケそのまま! それならいっそ、ブーケの花を食べてはいけないのでしょうか?
じつは、観賞用の花には制限がとくにないため、体に有害な農薬や延命剤を使用されているものが多いのだそうです。また、植物そのものが有毒な花もあります。たとえ食べちゃいたいくらいかわいくても、咲いている花をみだりに口に持っていくのはとっても危険なのですね。
エディブルフラワーは、野菜と同じように食べることを目的に栽培されています。なんと100種類以上が流通していて、パック入りの花が大手スーパーやデパートの食品売り場、インターネットなどでも購入できます。
使い方も、野菜と同じ! サラダや和え物、炒め物に加えたり、ケーキに飾ってそのまま食べたり、氷のキューブに入れて飲み物に浮かべたり。いつものメニューが、ぱっと華やかに楽しくなります。大切な記念日やおもてなしの演出にもぴったりですね。パーティーに登場すると、どんなお客さまでもテンションが上がります。野菜では感じることのない「君を食べちゃっていいの?」的な禁断の喜びが、花食には伴うようです。
季節の植物なので、決まった日に確実に入手したいときは、予めお店に相談しておくと安心です。

蝶もやってきましたよ
蝶もやってきましたよ

日本でもさりげなく花を食べてきました

ラベンダーやカモミールなどハーブの花のお茶やスイーツは、日本でもすっかりおなじみですね。ブロッコリーやカリフラワー、フキノトウ、ミョウガも、じつは花。
「花を食べる」文化は、古くから世界にありました。古代ローマではバラやスミレの酒をつくり、アメリカ先住民はサボテンの花粉を食事に取り入れ、儀式にも使っていたそうです。ほとんど野菜を食べないといわれているイヌイットの中でも、短い夏の間に咲く花を生で食べる人たちがいるといいます。ハスの花は中国・タイ ・インドでも滋養のある野菜とされています。
日本では、奈良時代のトイレ跡からベニバナの花粉が発見されていて、当時虫下しに使われていたことがわかっているそうです。平安時代には、中国・韓国から伝わった菊酒や(肴として)紅梅の塩漬けが供されました。江戸初期の料理書『料理物語』には、刺身用や料理の付け合わせに皿にのる花として、菊・梅・桃・タンポポ・ヒメユリ・アヤメ・カキツバタ・ユズ・ケイトウなどが記載されています。18世紀になると、ミョウガの花だけを湯通しして葛をかける、スミレ・ボタン・シャクヤクなどを干してから和え物に使う、色とりどりの菊の花を味噌漬けにして保存する、といった調理方法が紹介されています。
現在も、あんぱんの真ん中にのった桜の塩漬け・ 菜の花のお浸し・和え物の中の食用菊・お刺身に添えられたシソの花等々が、さりげなく食されています。富山県のチューリップを加工した食品のように、ご当地フラワーを味わう楽しみもありますね。季節の花を、目だけでなく舌でも愛でてきた日本人。華やかなエディブルフラワーも上手に使いこなせるに違いありません。
植物がエネルギーを注ぎこんで咲かせた、花。 野菜と同じく種類によって味や栄養が異なり、ビタミン・ミネラルや薬効成分は、野菜以上ともいわれます。
ホウセンカ・スナップドラゴン・プリムラには、イチゴやレモンより多くのビタミンCが、コスモス・パンジーにはビタミンAが多く含まれています。撫子には鉄分が、バラやカーネーションにはバナナより豊富な食物繊維が含まれています。キレイな花を食べてキレイになる、まさに妖精の食事ですね。花の色によって異なる味や、花びらの厚みで変わる食べ応えを比べて楽しみましょう。

日本のエディブルフラワー
日本のエディブルフラワー

花の魔法で、気持ちも華やかに変身!

目に映る色は人の心に影響をもたらします。美しい花を調理したり食べたりすることで、その色の効果を味方にできますよ。
・赤→ 血流を活発にし、やる気や興奮を呼び起こして行動的に。恋の勝負時にもお勧め。
・オレンジ→ 不安なときに勇気や決断力を与える。消化吸収力を高め、食欲を増す。
・黄色→ 心が刺激され陽気な気分に。コミュニケーション力を高めて、会話が弾む。
・紫→ イライラ・ピリピリと尖っている神経を鎮め、精神性を高める。
・ピンク→ リラックス効果で精神を安定させ、和らいだ優しい気持ちを呼び起こす。
・白→ 気持ちの昂りを抑えてクリアにし、リスタートしやすくする。食欲を抑制する。
しおれないうちに、また味や栄養価が落ちないうちに、新鮮なエディブルフラワーをいただきたいですね。保存するときは、密閉容器に入れて野菜室へ。塩や砂糖や酢に漬けたり、氷にとじこめたりして後日使うことも可能です。ドライ製品もあります。
透明なゼリーや氷の中で咲く花は、夢のように奇麗です。製氷皿やゼリー型には、まず半分の液体を入れて花を固めてから残量を注ぐと、きれいに真ん中におさまります。
忙しくて食事の準備に手間をかけられないようなときこそ、花が助けてくれます。ひと口サイズのサラダやカナッペ・市販のロールケーキやシュークリーム・ミニタルトなどに、小さな一輪をちょっと載せてみてはいかがでしょう。また、そうめんや飲み物の器に花びらを浮かべたり、花の氷を浮かべるだけで、たちまち「妖精メニュー」に変身・・・! 野菜や果物にも人工物にもない 自然のカラフル色は、ふだんの食事を一瞬で特別にしてしまいます。
美しい花の魔法を、夏休みの食卓にもかけてみませんか?

ポテトサラダで勝負ですね☆
ポテトサラダで勝負ですね☆

<参考>
『おいしい花』吉田よし子(八坂書房)
『エディブルフラワー花食生活のすすめ』久木倫子(日東書院)