「知床の岬に、ハマナスの咲く頃…」の出だしで歌われる「知床旅情」。今から50年以上も前に作られた大ヒット曲ですが、この歌によって、「知床にはハマナスが咲く」と、イメージされるようになりました。ハマナスは「浜」に咲く「梨」、「浜梨」がなまって「ハマナス」と呼ばれるようになったとか。北海道の海岸に自生するハマナス、そろそろ見ごろです。

ハマナスは北海道の海岸に多く群生。花はお茶に、実は食用に、根は染料に。

ハマナスは5~8月に開花し、その後、10~11月まで実がなります。高さは1~1.5mほどのバラ科の低木。南限は太平洋側は茨城県、日本海側は鳥取県。花の直径は6~8cmで、野生のバラの仲間では最も大きな花です。花の寿命はわずか1日。花はほとんどがピンク色ですが、まれに白い花もあります。
植栽されているところも多いのですが、北海道では海岸に多く自生し、網走、十勝、宗谷、根室、石狩、襟裳岬などに大群生地があり、今、まさに見ごろを迎えようとしています。また、道東には小清水原生花園(こしみず げんせいかえん)をはじめ、多くの原生花園があり、手つかずの自然の中でハマナスを見ることができます。
ハマナスの花は生薬として利用され、炎症を抑えたり、下痢止めや月経不順の薬として、お茶にして飲まれます。真っ赤な実は小ぶりなプチトマトくらいの大きさで、わずかな甘みと酸味があり、食物繊維やビタミンCなどのミネラルが豊富に含まれるので、ジャムや果実酒として利用されます。さらに、根の皮の煎じ汁は、渋みのある上品な絹織物「秋田黄八丈(きはちじょう)」の染料として利用されています。

真っ赤な実がかわいらしい。北海道の海岸に赤が映える。
真っ赤な実がかわいらしい。北海道の海岸に赤が映える。

歌い継がれる 「知床旅情」。羅臼と斜里には歌碑もある。

「知床旅情」は、故・森繁久彌が、知床半島に住む孤独な老人を描いた1960年の映画、「地の涯に生きるもの」の撮影で羅臼町(らうすちょう)に長く滞在したとき、森繁自身によって作られた曲です。ロケに協力してくれた 羅臼町民に感謝の気持ちを込めて作られた歌とも言われており、1962年にはNHK紅白歌合戦で歌われました。
その後、1970年に加藤登紀子が歌って火がつき、オリコンチャートで7週連続第1位を獲得するという大ヒット曲となりました。
羅臼町にある「しおかぜ公園」には、「地の涯に生きるもの」の老人の像と、「知床旅情」の歌碑があります。また、斜里町(しゃりちょう)ウトロ港の三角岩近くにも、「知床旅情」の歌碑があります。

斜里町ウトロ港の歌碑。
斜里町ウトロ港の歌碑。

知床半島の先っぽへは遊覧船で。原生花園でハマナスの群生を見ることができる。

知床半島は世界自然遺産に登録されていて、クマなどの野生動物も多く、半島の先端へは、一般の人は立ち入ることができませんし、そもそも岬まで行く「道」がありません。しかし、遊覧船に乗ってなら、海の上から、手つかずの大自然を見学することができます。海から見る岬の海岸線は断崖・絶壁で、崖にはいくつもの滝が続き、豊かな水がオホーツク海に流れ込む様子が見られます。
遊覧船は、大型の観光船と、小型のクルーザーがあります。大型観光船は揺れが少なく、ゆったりとした気分で雄大な自然を満喫できます。小型クルーザーは、断崖・絶壁の近くまで寄って、大迫力の自然を味わうことができ、どちらもさまざまなコースが用意されています。そのほか、カヤックで海岸線を周ったり、ガイドといっしょに滝や原生林を周るウォークツアーもあります。
知床半島の断崖には、歌詞のようなハマナスの群生は見られませんが、半島の西側の付け根、斜里町の海岸にある以久科(いくしな)原生花園は、ハマナスの花が一面鮮やかに咲くことで有名です。多くの人でにぎわう小清水原生花園と違い、以久科原生花園はこじんまりとしていますが、すばらしい景色を独り占めしたような気分で、心地よい浜風に吹かれながら遊歩道を歩くことができます。
ハマナスは北海道の花に指定されているほか、道内の多くの自治体でも市町村の花として指定されているほど、北海道にはなじみの深い花です。南国の海とは違い、夏でもどこか寒々とした感じがする北海道の海岸に、鮮やかなピンクの花と赤い実をつけるハマナス。そろそろ見ごろです。

断崖・絶壁が続く知床半島の海岸線。観光船で半島の周りを遊覧できる。
断崖・絶壁が続く知床半島の海岸線。観光船で半島の周りを遊覧できる。