ある研究で、健康な人々の腸内環境を調べたところ、彼らに唯一共通していたのが、菌の多様性でした。善玉菌のビフィズス菌ばかりが多い場合でも、多様性が低ければ健康な腸とはいえないのです。

 善玉菌が繁殖しやすい腸内環境であることも大切です。乳酸菌をはじめ、腸内を改善する善玉菌の多くは酸性環境(弱酸性)を好みます。こうした環境に整えるには、食物繊維を多く摂ることが有効になります。

 一方、悪玉菌の一種であるカンジダ菌は、アルカリ性の環境下で増えやすいという特徴があります。糖質を摂り過ぎると腸内はアルカリ性に傾き、悪玉菌が繁殖しやすく、善玉菌がすみにくい環境に。毎日の食事で腸内環境は変わります。食物繊維を多く摂り、善玉菌がすみやすい環境に整えましょう。

Q:多様性が乱れるとどうなるの?

 腸内細菌のバランスが乱れ、多様性が低下すると、様々な疾患のリスクが高まることが分かっています。これまでに関連が分かっている疾患としては、生活習慣病をはじめ、大腸がん、炎症性の腸疾患、アレルギー性疾患、精神疾患などが挙げられます。そして、こうした疾患は、将来的にますます増えるのではないかと懸念されています。

 実は、腸に定着する菌の種類が決まるのは幼少期です。ところが今、新型コロナの影響で、あらゆる場で殺菌や除菌が必要に。つまり、子どもたちが健康的に有用な菌に接する機会が減少し、腸内の多様性の土台が築きにくくなっているのです。

 こうした時代だからこそ、特に子どもたちは、発酵食品などで様々な菌を摂取する「菌活」はもちろん、アウトドアや家庭菜園などの場で、環境の中にある土壌菌と健康的に触れ合うことが必要になっています。

Q:多様性のある腸内環境にするには?
 
 腸内環境を整えるには、善玉菌そのものを補う発酵食品などの「プロバイオティクス食品」と、善玉菌のエサになる食物繊維などの「プレバイオティクス食品」を、毎日摂るようにしましょう。さらに、多種類の食品から摂ることも大事なポイントです。「腸活」というとヨーグルトを食べていればよいと思うかもしれませんが、決まった物だけを食べていては、腸の多様性を高めることはできません。乳酸菌もヨーグルトからだけではなく、漬物やキムチなど複数の食品から摂ることがすすめられます。

 りんご1個には約1億もの土壌菌が付着しているとされ、土で育った農作物を食べることも腸内の多様性につながります。一方、加工食品は栄養素も限られ、多様な菌を取り入れることはできません。自分の腸内にいる菌を育てる感覚で、バラエティに富んだ食材で食事を組み立てていきましょう。

監修/桐村里紗先生(きりむら・りさ)
内科医・認定産業医。愛媛大学医学部医学科卒業。tenrai 株式会社代表取締役医師。治療よりも予防を重視し、「ホンマでっか!?TV」やWebメディアにてヘルスケア情報を発信。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社)などがある。