東電の情報隠蔽と言われかねない事態が発覚した。伊豆大島に甚大な被害をもたらした台風26号が東北沖を通過した今月16日、福島第一原発では土砂崩れや陥没が起きていたのだ。だが東電はその事実を公表せず、災害から5日後、記者からの問い合わせで、ようやく明らかにした。

「崩落が起こり、道が封鎖されている」

 大型台風が通り過ぎた17日、第一原発で働く複数の作業員がネット上でこうつぶやき始めた。大通りと呼ばれる、原子炉1号機の北側を東西に走る構内主要道路の土手が、長さ10メートル、幅10メートルにわたって崩れ落ちたのだ。

「崩落だけではありません。大雨の影響で別の場所にある汚染水タンク近くの道路が深さ1.2メートルも陥没したのです。幸いけが人はいませんでしたが、2カ所とも通行止めになり、迂回しなくてはなりませんでした」(作業員)

 大熊通りは作業用の車両が頻繁に行き交うメーンストリートで、原子炉建屋にアクセスする重要な通路。崩落後、崩れ落ちた土砂を取り除く作業を進めているが、10月25日現在も数百メートルにわたって通行止めが続く。

 道路の陥没にしても、少し場所がずれていれば汚染水タンクが倒壊しかねない危険性があったが、東電は事実を公表せず、会見で記者からその理由を問われると、こう開き直った。

「人身災害や設備への影響がなかったため、通報基準外と判断して自治体などへの通報をしなかった」

 作業員が指摘する。

「原発事故前ならともかく、いまは事情が違う。これだけの情報を表に出さないのは明らかにまずい」

 そもそも東電の対応を見ていると、大雨への備えはあまりに頼りない。9月には台風18号の影響で汚染水タンクを囲む堰(せき)の水位が上がったことから、低濃度とはいえ放射性ストロンチウムなどで汚染された雨水を堰から海へ放出。それから約ひと月後の今月20日の豪雨では同じく堰から汚染水が漏れ、その一部が海へ流出したとされる。

 対応策として、堰にたまった雨水をポンプでくみ上げてタンクへ移送するもポンプの能力が不足。大急ぎで能力の高いポンプを増設したが、今度は肝心の移送先が足りずに地下貯水槽を使うはめになった。

 別の地下貯水槽で4月に汚染水漏れが見つかり、広瀬直己社長が今後、地下貯水槽は使わないと宣言した。だが、すべてが後手後手に回り、トップの言葉をわずか半年で翻さざるを得ないほど、追い詰められたのである。

 元東芝原子炉格納容器設計者の後藤政志氏が言う。

「大雨が降ればどうなるか推測は可能なのに、それに備えていなかったのが問題です。津波、竜巻など自然現象を想定するのは難しいことですが、原発を動かす以上はそうしたことにも十分な対策が取られていないといけません。いまの東電は汚染水対策ひとつとってもろくにできていない。そんな状況で原発の再稼働などできる訳がありません」

ジャーナリスト・桐島瞬

週刊朝日 2013年11月8日号